第3話 大好きな幼馴染

 今朝のアニカも可愛い。


「あっ、いい……」って思わず呟いちゃうほどオレ好みの顔がオレを見上げている。


 アニカは故郷の家の隣に住んでいた幼馴染だ。


 コミュ障のオレにとってアニカは、唯一といっていいほどの心安い他人でもある。


 隣に住んでる自分と同じくらいの生き物という認識だったアニカが、めちゃくちゃオレ好みの可愛い異性だということに気付いたのは、前世の記憶が蘇った五歳の頃だ。


 思い出した前世の記憶があまりに衝撃的でおねしょしてまった翌朝、幼馴染の魅力に気付いてしまった。


 大きな目にはまった茶色の瞳をクリクリさせてオレを見るアニカが、オレの好みど真ん中の容姿をしていると気付いた時の衝撃たるや凄まじいものがあった。


 五歳の時には身長とか体型にあまり違いはなかったように記憶しているが、アニカは育てば育つほど胸も育った。


 ズルズル身長が伸び続けるオレとは違って、アニカの身長は百六十センチを少し過ぎたところで止まった。


 ふわふわとした柔らかそうな体にオレ好みの顔、そして巨乳。


 向かう所敵なしである。最強だ。

 

 今日のアニカは少し癖のある柔らかそうな髪を一本の三つ編みにしていた。


 ホワホワした茶色の頭を見ていると撫でたくなる。


 魔法の研究職に就いているオタク気質の彼女は魔法塔に住んでいるようなものなので、同じ屋敷に住んでいるといってもあまり顔を合わせる機会はない。


 一緒に朝食を、などと誘おうとした所で彼女が既にマントを羽織っていることに気付いた。


 深い緑色のフード付きのマントは、研究職の魔法使いに支給されているマントである。


 いわば制服のようなものだが、アニカにとても似合っていてお仕着せに見えない。


 可愛さの勝利である。


 このアニカを毎日のように見ている魔法塔の男ども、生享受したくばゲイになれ。


 ちょっとした呪いを発動したくなったが耐えよう。


 それが魔力量の多い優秀な魔法使いが選ぶべき道だ! ……と思ったなどと言えば聞こえがいいが、そんなことよりもアイツらがいないとアニカの就業時間が増えるから却下だ。


 有能すぎる魔法使いであるオレがチラッとでも呪ったら洒落にならない事態を招きかねないから止めよう。


 この屋敷を国から支給された時、故郷を離れた心細さも手伝って「一緒に……どう?」とアニカを誘ったあの日のオレ、グッジョブ。


 よくやった、褒めてつかわす。


 時々しか顔を合わさないとはいえ、自宅が同じという安心感よ。


 本人ボーイッシュな非モテオタクだと思っている節があるが、そんなことはない。


 アニカは可愛い。


 丸顔に大きな目、ちょっと低めの自己主張控えめな鼻、ぷっくりした唇。


 肌色は引きこもりがちな割に健康的な色でソバカスもあるが、そこが可愛い。


 一人暮らしなんて危なくてさせられない。


 何かあったらどうする?


 あの日のオレ、グッジョブ。


 何度でも褒めてつかわそう。

 

「アニカさま。せめて朝食にこれをどうぞ」


「ありがとう、タミーさん」


 アニカはタミーさんから渡された茶色の紙袋を受け取った。


 タミーさんもグッジョブ。


 アニカは研究に没頭すると寝食忘れるタイプのオタクである。


 健康管理にいっちょかみできるのも、同じ家で住むことにしてよかったことのひとつだ。


 健康を害したり、ふっくらした体が痩せ細ったり、巨乳が貧乳になったりしないよう、さりげなくサポートできる。


 とてもよいことだ。


 ちなみにこの間、オレは「おはよう、アニカ」しか言ってない。


 でも逆に言えば「おはよう、アニカ」と言えたのだ。


 コミュ障のオレにとっては奇跡的なことである。


「行ってきまーす」


 元気に手を振って出勤するアニカに向かって手を振りながら、オレは幸せを噛みしめる。


 それと同時に、ちょっと不安になる。


 オレってばこの先、どうツケを払うことになるんだろうね?

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