第4話 お仕事
オレの職場は王城内にある。
魔法使いたちが大量にたむろしている魔法塔とは方向違いだ。
アニカと職場が同じだったら毎日のように会えるし、たまに帰る自宅も同じだから、そっちの方が良かったかな? とも思ったりするけれど。
毎日のように顔を合わせていたらドキドキしすぎて心臓がもたないし、彼女の側に近付いた同僚を片っ端から呪いかねないので、これで良かったんだろうな。
恋する男は危険なのだ。
本来なら転移魔法で出勤できるのだが、本日は徒歩です。
全て魔法に頼ると運動不足になって、本来のパフォーマンスを引き出せなくなるからだ。
自宅から王城の門辺りまでで三十分、そこから職場までは十五分ほどかかるが歩くのは苦にならない。
問題はそこではない。
チロチロとコチラを窺ってくる視線がツライ。
整ったオレの美貌にウットリしながら見つめてくる者もいれば、魔法使いとしての立場を表すマントをキラキラした瞳で見つめてくる者もいる。
自宅の周辺はまだいい。
コミュ障のオレでも、挨拶くらいは返せる。
ただちょっと憧れの眼差しを向けられたりした時に、中身はコミュ障のだらしない男でスミマセンと謝りたい気分になるだけだ。
これが王城に近くなればなるほど様相が変わってくる。
魔法使い同士はもちろん、騎士とか兵士といった武に秀でた者たちが嫉妬混じりの視線を投げてよこすのがツライ。
オレは何の実績もないのよ。
魔力量が多くて、魔法に秀でているだけで、実績なんて欠片もないのよ。
たまぁーに、イベントで花火とか飛ばしたりとか派手なパフォーマンスを披露しているだけなのだ。
それなのに重用されてスンマセン。
調子には乗ってないんで。立場はわきまえてるんで。スンマセン、許してください。
こう、意味もなく謝りたい気分になる。
それが王城の門をくぐると、また雰囲気変わります。
王城の中で働いている者は身分の高い場合も多い。
使用人といっても、王城勤めともなると平民でなかったりするのだ。
貴族位のある家で育ったなら礼儀作法も教えられたであろうに、不躾な視線は逆に増える。
オレは平民の生まれだ。
だからって困ることはなかったのだが、王城勤めの優秀な魔法使いになってしまうと変わることもある。
貴族からしたら、平民であるオレに気遣いなと不要というだろう。
なまじ優秀な魔法使いとして有名だから注目は集まる。
そしてオレは無駄に見た目が良い。
見た目のよい平民なんて、貴族からしたら遠慮なく何かしても良い存在だ。
魔法使えて良かったよ、オレ。
無力な見た目の良いだけの男だったら、空き部屋にでも引っ張り込まれていたかもな。
派手なイベント用の魔法だけでなく攻撃魔法も使えることをみんな知っているから、貴族から変なことをされたことはないけれど。
老若男女問わず、チラチラジロジロと見られるのは居心地が悪い。
認識阻害の魔道具でも使いたいところだけれど、王城内では特別な許可がない限りは使えない。
面倒だから明日は転移魔法陣を使うことにすると決める。
運動不足は別のところで解消しよう。
そんなことを考えながら、オレは自分に割り当てられた部屋へと入った。
職場である部屋は、基本的には待機室だ。
これといって仕事を割り当てられてはいないオレは、待機することが主な仕事となっている。
暇なんで、警備用魔道具の配置なんかをチェックする仕事もしているが、そっちはオマケだ。
緊急時対応のために温存されている魔法使い、という立場が与えられている。
とはいえ、緊急の事態なんて滅多に起こらない。
いや、起こったら困る。
なので、諸外国への牽制の意味で駆り出されたりするのだ。
イベントでの派手なパフォーマンスも、我が国には強い魔法使いがいますよ、というアピールのひとつ。
だからイベントでの派手な演出とか外交上有益と思われる場に駆り出されるのは断れない。
苦手なんだけどね、人の多い場所とか。
コミュ障だから外交そのものには役に立たないし。
いっそ裏方で会場設営とか力仕事しますよ、って気持ちになるんだけど、周りが遠慮してそういう作業には参加させてもらえない。
コミュ強者なら遠慮なんてモノともせず強引に参加するんだろうけど、オレには無理。
それは日常的な作業についても同じだ。
だからオレは待機室で椅子に座り、終業時刻までの手持ち無沙汰を誤魔化すために魔術書とか読んじゃったりしながら一日を終える日々を送っている。
今日もそんな感じで一日が終わるんじゃないかな? と思っていたんだが。
オレが待機室に入る所を見計らっていたかのように呼び出しがかかった。
行き先は神殿だ。
悪い予感しかしないのだが?
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