第二章・シーズン2

第二章開始・7話:冥土のみやげ

--次元ホール内にて--




 無数の人間たちが倒れている。

 おそらくもう息はない。




 そこでたったひとりの若い男性が手に青い炎を燃やして戦いを楽しんでいた。




 血のにおいも残さないよう、とむらうつもりがないのに炎で倒れた人達を燃やしていく。





「けっ。雑魚どもが」





 初心者をねらっていたのは若い男性の方だった。

 こんな合法的ごうほうてきに弱いものいじめが出来る空間があるとは思わなかったからかついはりきってしまった。




 炎の能力者でよかったと彼は不気味な笑みを浮かべてひとり立っていた。





 もう用はないと人間世界へ帰ろうとすると地面から手が生え、炎使いである彼をとらえる。





「なに!こんなもの! 」





 炎を使い手を焼ききろうとしても水をすった地面でできているのか通じない。





「ここにいる人たちのかたきをとるつもりはねえけどよぉ、ここでお前は死んでくれ」





 炎となった彼を地中と空から地面と岩がおそい、炎使いの彼の命が文字通り消えていく。




「初心者ばっかりねらって強くなれるわけねえだろう」





 地面がひとがたとなって青年の姿となる。





「炎使いってことはあいつのターゲットじゃねえか」






郷極冥菱ひるおきめぎど

2024年現在、20歳。

男性。





 とくに肩書かたがきはないが、強いて言うなら等身大とうしんだいの青年。

 土使いの格闘士ファイターである。






--土使いの半生はんせい--





 さかのぼること2010年。

 小学生になったころからインターネットはあって、今さかんなコンテンツは自分たちの中では当たり前となり、ありがたさや感動はとくになかった。





 趣味もなくて立ち技ってやつを習っていた。

 それしか面白いこともなく、だからといって誰かとケンカしたり、ケンカしている誰かを見て楽しむなんて民度が悪いこともしたことはない。






 それから友人たちも出来たがいじめられやすくてずっと俺が守っていた。

 面倒事めんどうごとはさけたかったから乱暴らんぼうなやつには分かりにくい技術で気絶きぜつさせて友人たちを守っていた。






 ところが現実ってのはヒーローを求めていないのか最初は助けられたと喜んでいた友人たちもしだいに俺のことをこわがりはじめ、陰口かげぐちやらインターネットでの悪口が広がりかけて俺が弱い人間みたいに先生たちから守られていた。







 考えすぎかもしれないがあの時の旧友きゅうゆうは学校内でぶなんにいきていくために俺を利用していただけだったのかもしれない。






 春のクラス替えや夏休みのプール、みたことのないゲームでの対戦とかやんちゃとか楽しんでいたのは俺だけだったみたいで全部身を守るために利用されただけに過ぎなかったのかもしれない。





 それからおさない頃から人間不信にんげんふしんになっていった。






 中学にあがるころ、俺はひとりで東京の中学へと進学した。

 勉強は苦手だったが義務教育ぎむきょういくをあんな連中と残り3年間くらすのは嫌だったので受験を合格し、ジムも変えた。

 夢はないが目標がほしかったのでちょうどいいスキルとして格闘技を利用したのだ。




 もっとも受験はそこを必要としていなかったので小学生で人間不信にんげんふしんになったころから成績だけを上げることばかり考えていた。







 どうせ弱い人間と集まったってその時だけの関係にしかならない。

 自分を人間だと認めてくれるだれかをさがすために行動するしか道は切りひらけないのだ!






 そうして進学した中学では進路をあまり考えずにすむだけでとくにこれといった展開てんかいもなかった。







 部活もいままで興味がなかった柔道部じゅうどうぶへとはいり、思ったよりもハードな内容と強さを求めて入部している子達のきゃしゃさに笑いかける。






 小学生時代の連中と過ごしたおかげで柔道部の子達が受験もふくめ未来を考えているまともな考えがあり、だからといって他人を切りすてる田舎根性いなかこんじょうとシティの負の側面そくめんもなくてつきあいやすかった。







 そこで『こりゃ柔道やってるやつだ』と思える体格たいかくとファッションの男子と話すことが多くなり、彼はeスポーツと韓国かんこくアイドルが好きらしいことを知る。






 そんな彼に最初話した内容は『中国武術と西洋俳優はダメか? 』だった。

 多分ゆいいつの俺の黒歴史くろれきし






 それから柔道少年こと穹明壱散あきるいちざとは部員の中でいちばんしたしくなり、彼の友人でeスポーツ選手を目指している別の中学の男子・果先為九はてさきないんと知り合うことになり、立ち技競技をやっていることを話すと目を輝かせていた。






 そうだよな。

 めずらしいはずだものな。






 為九ないんは家庭の事情で公立中学だったが俺を友として大事にしてくれた愛すべき陰キャだ。

 失礼じゃないかって?彼がそれを自称じしょうをするからなんの悪意もなければ考えがないわけでもなく言ってみただけだ。







 ただ為九ないんは流行りのFPSエフピーエスではなく古いゲームばかり遊んでいた。

 壱散いちざもだからこそ彼と遊んでいるのかもしれなかった。







 今では入手困難のゲームで話はそれほどではなくても操作や世界観が当時とちがって中学生にして涙を流したこともあった。






 新しいものを否定ひていするつもりは一切いっさいないが法律や規制と戦いながら作られたそれらゲームはちゃんと遊ばせてくれるしシンプルな操作で楽しむことが出来た。





 そこで少し俺の考えは変わっていく。






「eスポーツ選手〝も〟目指してみる」







 壱散いちざ為九ないんはとうとつな俺の発言におどろいていた。






 そのまま進級すれば俺の成績なら大卒だいそつは手にはいる。

 副業の時代と最低高卒の学歴が必要なブラック企業とストレス、一部のちゃんとした人以外の年寄としよりばかりの自称先進国じしょうせんしんこく・日本でそんな夢を見るなんて馬鹿げてると自分でも思っていた。







 それでも立ち技でいくらかスポットライトを浴びた経験があってこの中学にも合格できたからこそ出会えた彼らとの友情を大切にしてこれから先の未来を生きるのなら他の人間と同じようにあつかわれないよう努力ではなく工夫くふうと正しい負荷ふかが必要だった。







 そうして高校はeスポーツを専門にやる通信制を選び、プロファイターの年齢条件も満たしたので2足のわらじってやつをやってみることにした。





「おい立ち技野郎やろう。そこをどけ! 」





「何がメジャーか分からないくせにいきがってんじゃねえぞ! 」







 プロファイターになってeスポーツの勉強をやってみたが何度も同年代の他競技者メジャージャンルから嫌がらせとあきらめたくなる授業内容ばかりで単位を落とさないよう律儀りちぎなスケジュールをこなすだけの日常がはじまった。







 年齢も国籍こくせきも性別も関係ない友人や仲間もできたが格闘技に関しては人間不信がさらに悪化するできごとばかりで自宅に用意したサンドバッグを殴る毎日と壱散いちざ為九ないんに愚痴のLINEラインを送っては「ごめん」とあやまってはげましてもらう毎日を送った。







『いつかファイトマネーでこのお礼はする』







 と約束しながら。

 あの2人はそんな借りを返さなくてもいつも通り過ごしてくれると信じているはずなのに重い条件をつけないとたよることも許されないと考えてしまった。



 




 試合で勝っても負けてもSNSではいじられ批判。

 スポンサーもつけないとやっていけず、格闘技ファンは新陳代謝しんちんたいしゃを好まないからか良心的な格闘技初心者ファンを追い出しエコーチェンバーのおそろしさを知る。







「俺は……俺は人間がもつ田舎根性いなかこんじょうとシティ的無関心にこびるために戦って生きてるわけじゃない! 」






 本音はいつも自宅の風呂場のなか。

 殺意や恨みなんかじゃない。

 そんなものはじまんじゃないがいだいたことはない。






 変わらない歴史とつまらない幸せを自分だけのぞみ、数で他人を追い詰める人間を呪った。






 そして高校を無事卒業し、この不条理ふじょうりしかない世界で生きていくためにeスポーツ選手はすててリングに上がることをちかう。






 そんな時に『次元ホール』はあらわれた。






--土は風をおこす--






 20歳になって次元ホールでの戦いもなれ、土使いとして生き残ってきた。






 そこでは謎の空間モニターから男性声の命令口調で






『水使いをたおし、雷使いを助けろ! 』






 とその声の主から目をつけられてからずっと戦って命令にしたがっていた。






 何人か水の使い手がいたが土のゴリ押しは思いのほか相手に通じていた。






 ゴリ押しといっても水分を吸収するのは造作ぞうさもなく、相手もそこまで強かなかったので命令にしたがえたか分からなかった。





 雷使いにもあったが






『そいつはちがう! 』






 と言われ、戦うはめに。

 あの声の主にバレないよう、岩や金属をあやつることもできたからか土の応用で雷使いをたおす。






「悪く思うな」






 次元ホールの戦いは興奮こうふんすることもなければ悲観ひかんすることもない戦いでしかなかった。






 相手はなるべく殺さず弱らせて逃がした。

 それでも力が制御せいぎょ出来なくて死んでしまった相手もいた。







 だからこそ強くならなければいけない!

 戦いの後悔は戦うことでしか乗り越えられない!






 すべては死なないためだ。






 葛藤かっとうのなかで命令のまま戦っているとかつて俺に嫌がらせをした他競技ファイターが次元ホールではばをきかせていた。






「ほお。雑魚がまたやってきたか」







 その相手は『雷使い』だった。

 命令どおりならこいつを守られないといけない。

 しかし相手は話が通じない。





「おい!あんたが守ってほしい雷使いはこいつか? 」





 声の主の返事はなかった。





 余計な悩みを増やしやがって。






 相手は落雷らくらいを利用し攻撃してきた。

 金属に変化させたふたでその攻撃をふせぐ。






「へえ。結構戦えるのか」







 俺は地面からトゲを生やし、串刺しにしようと相手をねらった。






 それでも声の主はなにも言ってこない。

 どうやらチュートリアルはここで終わりのようだ。

 それにもしお目当ての雷使いだったら……







 試行錯誤しこうさくごしていると後ろから稲光いなびかりがあたり、背後に激痛げきつうがした。







 土人間だからよかったものの金属変化への応用をねんのため背中にもほどこしていなかったら死んでいた。






「しびれさせて殺してやる。ライバルは少ない方がいいからな」






「俺もそれに賛成だ」






「生意気いってんじゃねえぞガキが! 」






 ゲームで知ったゴーレムをイメージしたよろいこぶしで雷使いの相手は竜の姿で向かい打ってきた。






「じゃ、ここで俺の出番かな」






 大嵐おおあらしが雷の竜をおそい、いきおいをしずめた。






 そして俺の攻撃が相手へとあたる。






「な、なにがおきた……」





 はるかかなたまでぶん殴ったが雷使いなら死にはしないかもしれないと謎の安心感があった。






 それでもさっきの大嵐おおあらしは?

 他の参戦者さんせんしゃか?






「まさかこんなところでプロファイターの能力者に出会えるとは」






 金髪で一般人なら分からないだろうが服からは胸と背中がしっかりときたえられているおそらく同年代の男性がやってきた。






「誰だお前は? 」





「敵じゃない。だが味方でもない」






 風使いか?

 それでも彼はどこかで聞いたことがある。

 もしそうなら彼は元ファイターでいまはもう自分の日常を暮らしているはずだが。







 ふん。

 俺としたことが何を甘いことを。

 次元ホールがある以上、誰と出会ってもおかしくない。






「関係ないなら俺に手を貸す必要はないはずだ」






 彼は風をまとって空へ浮かぶ。






「嵐。それじゃひねりがないか。RAMランだ。あらしとかいてRAMランだ。覚えやすいだろ? 」






 やれやれ。

 変なやつだったようだ。






「お前も命令されて俺に協力してるのか? 」






 ランは無表情かつ口を閉じている。







「わけありならだまって自分の戦いをしてろ。それでもさっきは助けてくれてありがとう。じゃあな」






 人間世界へ帰ろうとするとランともさっきの嫌がらせ野郎ともちがう気配を感じた。






 あれは水のにおい。






「同年代と話すのは久しぶりだし、命令がどうのとかお前は複雑な事情があるらしいな。だったら手を組まないか? 」






 考え事がふえるばかりだよここは。

 ぞくに言う異世界だがチートスキルを持ってるわけでもないし。








「はあ。好意的なのはかまわないが裏切る時は前もって攻撃してこい。殴り合いでもでも蹴り合いでもしてやるよ」







「そうかっかすんなよ」





 こうして俺と風使いランと組むことにした。







※一方





 茨鉄いばるぎは修行を続けていた。

 戸塚のような雷使いに出会うこともなく、2つ目の能力を持つ者とも会うこともなく、やばくて好戦的な相手とのみ戦って戦意せんいがない相手とは戦わなかった。






 そんな修行中に土使いと風使いの人間が戸塚とはちがう雷使いと戦っているのを目撃もくげきした。






「こりゃあしっかり水をあつかえないとやばいな。」







 土使いが何度も口にした命令。

 雷使いの相手への力加減かげんから見ると戸塚がなんらかの手回しをしている可能性があった。

 いや、おそらく……






 茨鉄いばるぎも死なないためにいままでの能力を完璧にあつかえるように水でできたサンドバッグを殴って蹴り続けた。

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