第一章完結6話:ルマリアと土の格闘士

 戸塚剣縦とつかそうらは自分が未熟みじゅくだったとは思っていなかった。




 たかが水使いでむさい歳上の茨鉄男犠いばるぎだんぎ相手に手こずるなんて。




 ホールから出たあとルマリアとマンガ喫茶きっさでまだ読んでいなかったシリーズを読み、ヒトカラをよそおって2人で過ごして夜のいとなみへ。





「少しは大人になってくれない剣縦そうら。これは別にたいした愛情表現あいじょうひょうげんじゃないんだけど? 」





 かたい考えの異種族だよルマリアは。

 いつもこんな会話ばかりしているからか特に返事をすることもなく低予算ていよさんで過ごす。





 別荘べっそう茨鉄いばるぎをたおした祝杯しゅくはいをあげようと言ったのにルマリアは戸塚剣縦とつかそうら贅沢ぜいたくさそいをことわった。






 そういえば。

 戸塚剣縦とつかそうらは長く次元ホールで超能力達をたおしていたがルマリアのくわしい話を聞いたことがなかった。





 過去を話したがらない人かと思って戸塚剣縦とつかそうらも聞くのをやめていたのだが……。





「ルマリア。次元ホールのこともそうなんだけどさあ、また茨鉄いばるぎみたいな変わった強さを持つ人間がいたら困るから色々と教えてくれないか? 」





 ルマリアははぐらかそうとしっぽをふって合図をしたが何やら気が変わったのか真剣な顔になって戸塚剣縦とつかそうらのあごをなでる。






「前にも言わなかった?あなたは彼に似てるって。まあその彼がどういう人だったかを説明してもいいかもしれない。でもいいのかい?私を信用して」






 ただの恋愛関係には絶対にさせないルマリアのこの世界の人間とは違う考えに戸塚剣縦とつかそうらは今までは奥底で眠っていた欲望が目覚めはじめた。






「ただ聞きたいだけじゃない。ルーツを知りたくなるのはしかるべき強さを持つ者に限る、だろ? 」





「何がしかるべき強さだよ。私たち茨鉄いばるぎの水のあつかいかたに思いっきりやられかけてなんとか勝った同類どうるいじゃないか」





 それもそうだな。

 やっぱはぐらかすか。

 次の機会に聞こうと部屋を出ようとすると





「人間世界へ行くことは私たちにとって最大の冒険だった。あんなことさえなければ」





 話してくれるのか。

 茨鉄いばるぎに水分を分析ぶんせきされて記憶も読まれて観念かんねんしたのか?





 いずれにせよラッキーだ。

 そしてルマリアの過去が語られる。







--もつひとつのルマリア--





 知的生命体は広がり続けるらしい宇宙に無数もある。





 その文献ぶんけんは人間界に来た時に私……ルマリアが読んだ初めての情報だった。






 我々の一種は一定の場所を住処すみかとしない人間でいう遊牧民ゆうぼくみんに近い生物だった。






 気の合う者としか行動せず、他の集団しゅうだん共存きょうぞんするには仲間を作って離れて各地を旅するしか生き残る方法はなかった。






 子どもを残すため、他の仲間を増やすため、理由はともかく私たちは自分が入っている集団以外と出会うとあらそってしまう。





 そうつくられているからこそ集団で避けるのだ。





 私たちの集団には私ルマリアをふくめて4人いた。





 集団の中でいちばん大きく筋肉質きんにくしつであまりしゃべらないルキファス。





 共存のためにあらそいを避けるため、他の集団と出会ったら交渉こうしょうしてくれるだけでなく私たち集団の治安ちあんも守ってくれるツッコミが上手いルーダ。






 そして……。

 私の人生を変えた人間でいう良い意味でヤンキー気質のリーダー、ルンギスタ。






 私たちは他の集団と比べても浮いているくらい旅を楽しんでいた。





 特に何か目的もない。

 好きななにかも仲間以外になく、ルンギスタの提案にただ乗るだけだった。






 そこで唐突とうとつに人間世界を知ったルンギスタは4人でそこを最後の居住区きょじゅうくにしようと言い出した。





 私たちみたいにだれかと会うことを避け続ければどうとでもなる生き物が住んでいるわけじゃないとルンギスタに私と残り2人が説得した。



 しかし。




「もう何度もこの世界の景色を楽しんだ。人間世界がどれほど残酷かも旅で他の集団がのこした書物しょもつにもある。だからこそ俺たちはそこで暮らしていけば退屈せずに死をむかえられる」






 目的がほしいわけじゃなさそうだったルンギスタ。

 そりゃそうだ。

 私たちはシンプルに遠い世界へ何度も行き来したい。






 ルンギスタが私を愛してくれた理由。

 それは私が作れる『次元ホール』にあった。






 罪な男とここだけ聞けばルンギスタの気質的に誤解ごかいされそうなのでもう少し関係をほりさげる。






 私は最初この能力を利用されかけた。

 他の集団が私を引き抜こうとするのもこの能力を利用してあらゆる世界の生き物を仲間にし、思い通りの世界を作ろうとしたから。





 なぜそんな嫌な能力を持たされたのか。

 私たちの一種に親や血のつながりはない。





 意識もなにもかも基本的きほんてきなことはなにもかも今のまま経験をつみかさねていく。





 労働ろうどうもないし、便利な道具もない。





 ただ話して集団を探して、たまに武力ぶりょくを使って新しい集団をつくるだけ。





 ほんらいならそれだけのはずだった。

 それなのに私だけ異世界へ旅立ち次元ホールの持ち主に力をあたえられる能力があった。





 今まで何度もその能力だけ利用されとらわれては逃げてをくりかえしていた。






「てめえら!自分たちとちがう力があるからってだけで人を判断はんだんするな! 」





 私がはりつけにされて無理やり次元ホールをつなげようとした時、そこにいた全ての集団をきぜつさせ助けてくれた人・ルンギスタがいた。





「さあ、出ていくぞ」





「まって!あなたも私を利用しに来たはず。きれいごとなんて言えない。私たちはずっとこの世界をさまようだけの生き物だから」






 ルンギスタは私が拒絶きょぜつすると腕をひいてゆっくりとこの場をはなれた。






 そして今まで見たことがなかった花畑や湖をみせてくれた。






「この世界にはまだこれだけの景色がある。もちろん多くは解明されているし、俺たちだけの景色として死ぬまで誰にも言わないって選択もある。俺たちはもう何もしばられなくていいんだ」





 ルンギスタは私よりも身長が小さく、人間でいう子供のような明るさで初めて私を人としてあつかってくれた恩人だった。





 ここまで話せばただの美談びだん

 現実はそんな私たちを何度もじゃましてきた。






 そこでルキファスが洞窟で死を覚悟した時に岩をどけてくれて仲間になり、街で変な話ばかりしていたルーダをルンギスタが気にいってバラバラだった集団がひとつになった。






 これまでの旅で私たちは何か言葉にする必要があった大事な目標をかかげて生きていたはずなのにいつの間にかこの世界を許せなくなった。







 ルンギスタの提案は初めて私を認めてくれた人とは思えないくらいに私の力を利用しようとたくらんでいるかのような口ぶりばかり目立つようになった。







 ルキファスより力は弱くてもルンギスタは一種では2番目の強さをほこるほどの人。






 金持ちで強くて常に仲間を選べたからひとりを好み自分だけの集団を作ろうとしていたリーダーはついに私たちを裏切ることになった。






 それでもルンギスタはルーダの説得だけでなくなるべく次元ホールにたよらないやり方で人間世界を目指そうとしているのはあの発言の後に知った。






 ショックを受けて崖のそばで座っていると何かを殴るような音が聞こえてきたので警戒けいかいして私は音の方へむかうと、そこには岩を殴りつけるルンギスタがひとり泣いていた。






「なんでルマリアにあんなことを……くそっ、くそっ、くそっ!俺の馬鹿野郎!! 」






 ルキファスとルーダは前から知っていたのかもしれない。

 彼が誰よりも一種としてではなく自分たち集団の目的を作ることに。






 そして彼は私を誰よりも愛を持ってせっしてくれていたことにも。






 そして私は決意した。

 人間世界へ私だけむかうことを。






 私は何事もなかったかのように次元ホールを使って4人で人間世界へいくことを決め、能力を発動した時だった。






 他の集団がどこから知ったのか私たちを攻撃してきた。






 うかつだった。

 こんな能力を唯一ゆいいつもっている私がマークされていないわけがなかった。






 相手は数で私をねらい、ルキファスがたったひとりで大人数と戦った。






 ルーダは力ではなく最期さいごまでコミュニケーションで止めようとした。






 私は次元ホールをここで初めて使い、4人だけでも逃げようとした。






 慣れてない力をいきなり使ったせいで私たちの住む世界全体が次元ホールによってのまれ、ルンギスタはルキファスとルーダを連れていくために……私を守るために戦闘能力が高い他の集団がしつこく追いついてきた時に背中の筋肉を私にみせた。






「人間世界を……頼んだぜ……」






 そうして私は帰る場所を失い、仲間を失い、一種を失った。







 気がつくと日本という国へ飛ばされていたらしい。

 周りから私は見えておらず、死んだのだと誤解ごかいしていた。






 手探りでこの世界がどんな場所か調べた時に人間の尊厳そんげんがどうのという集団をみて、今までルンギスタがみせてくれた人間世界の情報といっちした。





 ここが、



 ここが人間世界。





 転生てんせいじゃない。

 私だけ人間世界という異世界へ生きたままやってきたことを実感した。







--かえりみちにて--





 戸塚剣縦とつかそうらはルマリアのどこまでが本当か分からない過去を聞いた。





 人間じゃなくてもあやまちってあることを知ったショックと最後の生き残りとしてこの世界へルマリアがやってきたことも。






 ルンギスタがこの世界で言う金持ちの活発な少年だとしたらルマリアが自分を選んだ理由もなんとなく知ることが出来た。






 ルマリアは隠し事が多い。

 だからこれだけ深い話をしてくるのはかつての仲間か戸塚剣縦とつかそうらである自分にしか話すことはもうないだろう。






「俺は最低な種族である人間のひとりだ。でも、身も心も腐ったりなんてしないように一緒に戦おう。くわしいことは分からないけどルンギスタってやつも他の仲間もルマリアの能力なんてどうでもよくて、たのもしい女の子として受け入れてくれているはずだ。俺はそう信じてる」






 疲れたといってたおれたルマリアを肩でかつぐ戸塚剣縦とつかそうらはふだんは言わないことばをルマリアへ向けた。





 ルマリアは何かを思い出したのかさっき語ってくれた話とはちがう内容をしゃべる。





「次元ホールに茨鉄いばるぎ干渉かんしょうしたのは想定外だった。でもちゃんと策はあるから。あと、私の仮説がただしければ……あの自販機じはんきに軽い電気をはなってみて」





 突然何を言うんだ?

 次元ホールでしかあの能力は使えないとさんざん言っていたのに。

 そしてこの発言は戸塚剣縦とつかそうらにとって最悪を想定する必要が出てきたアドバイスでもあった。






 ためしに次元ホールでやるように能力を使うと電気が自販機にあるコーラへあたり、見事コーラが排出はいしゅつされた。






「まじか。」





 使






「戸塚!ここでお前と会うのかよ」






 ルマリアはかまえをとり警戒する。

 この声は、






茨鉄いばるぎ?死んだはずじゃ」






「初心者から普通くらいの能力者になっただけだ」





 再生能力だと?

 ならここで光を…





「まって剣縦そうら!あの光を少しでもはなてば目の前だけでなくもっと先の場所まで穴があく。この次元ホールは私がなんとか調整してなるべく目立たたないように相手を選んできたつもりだった。最初に茨鉄いばるぎを弱いと相手にしなかったことが裏目にでてしまった」






「ルマリア。俺の力を信じてくれてたんだろ? 」






 ルマリアは一瞬動揺どうようした。

 それだけ自分の強さを認めてくれている。

 2つ目の能力を手に入れてあつかえるようになったときにルマリアも夢を見始めていた。

 誤算ごさんなんてつきもの。

 それに念の為の策もあるのなら安心だ。






「ここであんたとやりあうつもりはねえ。茨鉄いばるぎ、あんたは強くなる前に始末しまつする」






 茨鉄いばるぎも拳をにぎりだまってこちらをにらんでいた。






 あのあと修行をしたのか茨鉄いばるぎの水の力はもうあの時とはちがっているように戸塚剣縦とつかそうらは見えた。






 次元ホールのことはそう遠くないうちに明かされるかもしれない。





 そう。

 ルマリアの故郷こきょうで起きたように。






 戸塚剣縦とつかそうらとルマリアは気を引きしめて帰ることにした。







--土のはしくれ--





『お前の力はやがて守るべきもののために使える。この次元ホールで強くなれ』







 モニターのような空間を使って命令口調めいれいくちょうの誰かから声をかけられ選ばれていらいずっと戦ってばかりだ。






 土の能力、か。

 もう少しマシなものにしてくれよ。






 現実世界でも自分自身を守るために拳をふるえないディストピアと実現なんてどだい無理なユートピアを目指す馬鹿な人類。





 そして現れる異国の能力者。

 俺と同じ国のやつも関係はない。





 戦いと恨み。





 そこに人種年齢国籍性別たようせいは関係ない。







油断ゆだんするなよお前ら」






 存在証明のために俺は戦う!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る