第5話:2つ目の力と3通り目の選択肢

 なぜだ?

 なぜあんな初心者に俺の攻撃が当たっていない?




 それにいつルマリアを。




 戸塚とつかは次元ホールでいつも圧倒的な戦いばかりで退屈たいくつしていたほど自分自身のいかづちひかりの能力と格闘術におぼれていた。



 相性あいしょうとしても水とは悪くはないはずだ。




 フィクションとちがって水の能力の持ち主は雷の能力者相手に有利にはならないものの不利ふりにはならない。




 いままでのやつらと何がちがうのだ?

 なぜ俺のそばまで近づいてなぐることが出来たんだ?




 茨鉄男犠いばるぎだんぎ

 今も現役げんえきかは分からないがお世辞せじにも目立つ方ではなかった。




 良く言えば男らしい。

 悪く言えばむさい。




 歳は戸塚の3つ上。

 たまにチェックしていた時ではそこまで強さを感じる人間ではなかった。




 若いわりに古い考えのよくいるタイプだと油断していたとは。





 茨鉄いばるぎはとらえたルマリアに水でできたやいばを空中に浮かせている。

 ルマリアに次元ホールの操作そうさを任せていたからか反撃をしようとはしない。




 見ているかぎりさすがにルマリアを本気で殺そうとはしていないようだったがこのままでらちがあかないのでどうやって自分の攻撃をふせいだのか時間稼ぎもふくめて聞いてみることにした。




「少しだけ異世界にふれて楽しんでいただけのあんたがなぜ俺の雷を受けて平気でいられる?」




 最初は手応てごたえがあった。

 水の能力者は水をあやつれるようになると自分自身は水をまとっているだけということに気がついていない。




 水は電気を通す。

 しかし人間は電解水でんかいすいを飲用するから感電かんでんはする。



 しかも茨鉄いばるぎに自分の能力をさとられるまえにせめて安らかに死ねるよう強めたのに。



 茨鉄いばるぎの身をつつむ空気が水蒸気すいじょうきの変化だけでなく変わった気がした瞬間しゅんかん、口を開いた。




「最初に電撃攻撃を食らって使い魔だとお前が言った何かに気がついた時にひらめいたのさ。一度自分の身体を液状化えきじょうかさせ、周りの水分と一体化することで」




 フィクションではよくある能力だがさっきもいったように現実では水をまとうかはなつかぐらいが関の山。



「そんなことできるわけがない!異世界だからって夢見てんじゃねえ! 」




 とらわれているルマリアはしきりに首をふってこちらに合図を送っていた。



 そうか。あの人間の能力は今までのやつらとはちがうということか。



「これも現実だ。あと最後まで聞け。」




 ルマリアへの制止せいしする手をゆるめない茨鉄いばるぎの話は続く。




「電撃を食らってすぐにもう一人の自分を水で作ったあと、俺はこの次元ホールにある周りの水分とおそらく大地にあたるこの場の陸にある水分へ分散ぶんさんさせた。もちろんけだった」



 それが成功しただと?



「その場の水で作った程度の人形ごときでふせげるわけがない!このホールでそんなことができるわけがない! 」




「だからお前の使い魔のホールまで別の水分で探していたのさ。ここにある全ての水分は俺の目であり身体。ホールの外まで届く可能性をあきらめていたがこのルマリアってやつの指がホールにあったから助かった」




 それでアドバイスが聞けなかったのか。

 必要ないと調子に乗ったツケがまわった。



「雷攻撃をふせいだ理由はそれだけじゃなさそうだが……まあいい。お前の水人形には土か他の物質を埋め込んでいて本体には届かなかったから、きたえた体力と身体の強さもあって本物そっくりにあやつれたってわけか」




 雷攻撃ならそれだけですむ。

 しかしやつの知らない2はどうやってふせいだ?




「俺のもうひとつの技はどうやってかわした?ルマリアの指にふれたぐらいで……まさか? 」




 うそだろ?

 次元ホールをあやつっているのが誰かは戸塚とルマリアしかしらない!




「ルマリアってやつはお前を裏切ってはいない。俺がルマリアの水分を利用してあの光の正体をたしかめた。いくらルマリアが人間じゃないとはいえパートナーなら信頼しんらいしてくれ」




 なら茨鉄いばるぎは能力を使えたのか?




「口がかたいのはとっくに知っている!俺たちの関係を馬鹿にするな!ま、それはともかくおんたのお得意な水分は俺の光で蒸発じょうはつさせた。そうなればこの次元ホールの力と次元ホールがいの水分をあわせても俺に攻撃なんてできるわけがない! 」



 水の人形もあの時は消えていた。

 そうなると自分をなぐった茨鉄いばるぎは本体なのか?

 そうなるとルマリアがなぜつかまっているのか分からない。




 いや、まさか!




「ずいぶんと水の使いこなしているみたいだなあんた。おどろいたよ。賞賛しょうさんあたいなんぞするか!卑怯すぎるぜてめえ! 」




「卑怯か……」




 まだ何かあるのか?

 うかつにルマリアに攻撃はさせられない。

 いま光をつかってもいいがルマリアが首をふったということはもう少し茨鉄いばるぎの様子を見ないといけない。



 そうして考えているうちに茨鉄いばるぎは戸塚への殺気を顔にこめてにらみつけた。




「こっちは初心者で上級者相手に堂々と昔のフィクションみたいに戦ったら確実に蒸発する。恵まれた人間に勝つにはそれ以上の汚い手も使うしかない。それだけお前は強いんだよ」





 おほめにさずかり光栄こうえいだ。

 一度も反則も計量けいりょうオーバーもしなかった茨鉄いばるぎがただ死にたくないがためにここまで戦ってくれるとは。




「この光の弱点を見抜いたところで雷への対抗たいこうは水分が必要。ルマリアの水分を知るなんてハレンチなことをしたのならもう説明しなくてもいいのよなあ? 」




 次の光を茨鉄いばるぎのみにあてる。

 これ以上戦いが長引ながびいて仕組みがばれるわけにはいかない。



 戸塚はルマリアを逃がすためにピンポイントの光を飛ばした。




 すると戸塚の服がやぶれ、身体も傷がついた。

 小さな水振動みずしんどうカッターが残っていたのか。

 この光の弱点をつき、水分があればすぐに攻撃。

 しかもルマリアを人質ひとじちにされ本物はどこか分からない。



 この次元ホールごとつぶせればどれほど良かったか初めて自分の無力さを戸塚はなげいた。



 それでも攻撃をやめるわけにはいかない。

 ルマリアをこのホールにひきずりだしたのは英断えいだんだがまだ爪が甘い!




 戸塚は全身を使い放電ほうでんした。




「うおおおおおおおおおお! 」




 ルマリアを人質にとらているからとガキでもないのに感情的になってしまった。



 ルマリアの合図は他にもあった。

 本物はと。





 ルマリアをひきずりだして安心しきっていたようだ。

 光の弱点をついたのはともかく雷を制御せいぎょ出来ないわけがないことくらい戦って分からなかったか!




 これだけ素質はあってもしょせんは初心者狩しょしんしゃがりか。

 かといって殴りあいもりあいも物足ものたりない。




「う……がはっ! 」




 さすがに液状化えきじょうかはなれていなかったか。

 それとも万能ばんのうではないことが証明されただけか。




 茨鉄いばるぎ湯気ゆげを出しながら水分や水蒸気が集まって人間にもどりたおれた。




 ライバルを減らし、こちらの弱点も研究する必要ができた。




「ありがとう茨鉄いばるぎさん。おかげでいいデータが……」





 ルマリアをとらえていた水人形が消えたのか彼女が戸塚を押し倒し巨大な水振動カッターからの攻撃をよけることができた。




「まったく。最後まで調子にのって」



 信頼していた、と言ってほしい。

 さすがにそこまで言うのはキザすぎたから照れるだけにした。




「た、助かったよルマリア。お前、体内に水分あったんだな」





「この世界では私の身体もこちらの物質におきかえられるのかもね。なんというか悔しいけど彼の賭けに私たちは負けたってこと」




 どうりであまり気分のいい勝ち方じゃなかったわけか。




「光攻撃のロックは今後いざと言う時に私へあたってもいいように調整してみたら? 」




 ふん。

 そんな最低なことできるか。




「ルマリア。自己犠牲じこぎせいなんて戦いの中でも口にすることじゃない」




 なんにせよ茨鉄いばるぎは終わりだ。

 さっさとこの次元ホールからぬけよう。

 まだ水を動かせる能力があると知った以上、死んだとしても細工さいくをできるのかもしれない。




 どのみちたったひとつだけの能力じゃこの先の戦いでは生きていけないのだから。




「ルマリア。今日は最高のしめにしよう」




 姫を救出きゅうしゅつした王子の気分を味わえただけでもいい気分だ。





 ルマリアも彼は油断ならないと人間の空間へ戻るホールを開けて運良く去ることに成功した。




 これから先で他にも強い能力者と戦うかもしれない。



 それでも2人でいれば怖くない。



 いつかこの好意を口にしよう。

 行動だけじゃつかめないものもあるからな。





 ※残されたホールで





 水分を大幅に減らされた次元ホール。

 たおれた茨鉄男犠いばるぎだんぎの身体。




 別空間から開いたホールの水分とこの次元ホールにある水分がたおれた茨鉄いばるぎの身体と融合ゆうごう全裸ぜんらで復活した。




「はぁ…はぁ…はぁ…」




 いくらなんでも相手が悪すぎた。

 初心者で水しか使えない自分と次元ホールとは別の空間からアドバイスができる使い魔ルマリアに雷と光の能力を使える自分より若いプロファイター。




 現実は残酷ざんこくだ。

 それでも初心者ながら全てがけとはいえできることでここまで戦えるとは思えなかった。




 それと別空間の仕組み。

 もしかしたら元の世界へ戻っても使えるかもしれない。




 これは秘密にしよう。

 次元ホールはルマリアによって各地に出現させられる。




 そしてすでに何人か能力者がいる。




 身体が回復したらうんときたえよう。

 どんな時があっても誰かに殺されないように!





 選択肢が少ない茨鉄いばるぎはいますでにできることで生き残ることをちかい、修行をはじめることにしたのだった。



 それがもたざるものが選べる3通り目の道だと信じて










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