第4話:天才と一般人

※一方



 文化は知的生命体の特権か。



 何度仲間と語らって、現実を生かされ、旅を続けてきたのだろうか。



 楽しかった思い出はやがて悪夢となっておそってくる。

 晴れにもいくつかあって半分くもり空だったり、まったく雲がない晴れだったり、それでも雨がふったり。



 こちらの世界の話だから仕方ないけどね。



「ルマリア。また練習か? 」



 いつも岩ばっかりもってきたえてばかりでこちらの会話は聞いてくれていないと思っていたのに。意外と紳士じゃないか。



「旅があきてしまったら生きる意味がないでしょう?いつ何が起こるか分からないからあなたが身体をきたえているように、私は私で異種族と話せるように言葉を繰り返している」




 そうかとも言わないでだまって彼は去っていった。

 ごめんね。なれないことさせて。私はあまりしゃべらない練習も必要だったかもしれない。




「ルマリア。人間世界に行けるかもしれないってだけで浮かれすぎだよ。それに何をしてくるか分からない知的生命体だぞ?殺されたらどうする? 」




 おどしてるつもりは本人にないとはいえ友好的なそぶりがある人間がいる可能性をあまり否定したくなかった私は少し彼の言葉と現実を覚悟しておけばよかった。




「お前ら!早くここを出ていくぞ! 」




 楽しい時間なんてすぐに終わる。

 だから1秒も時間を無駄にしたくなくてしゃべりたくなる。




 運良く私達は自分たちの住む世界にいる異種族によるなわばりあらそいに巻き込まれるところだった。




 これだけならいつもの話。

 その後は……。




「ルマ……リア……人間世界を……たのん……だ……」





 はっ!





 夢?まさか。

 剣縦そうらが弱いもの狩りをしているから油断した。

 あの人間との相性なら剣縦そうらが有利。それに相手がその時は強くても経験では剣縦とつかそうらが上。





 私が認めた彼ならこんな見張りをしなくても…。





 ん?まさか?あんたは!!






※--茨鉄いばるぎは--






 戸塚剣縦とつかそうらは余裕の笑みを浮かべ茨鉄いばるぎ標準ひょうじゅんさだめる。





 ルックスやSNSの拡散力で成り上がった人間だと思っていたが茨鉄いばるぎの知らない世界で彼のみが経験した物語があったらしい。





 ここは腹をくくるか。

 みょうな世界に入って力を手に入れたら他の連中に見つかってあっさりと死ぬ。





 いやいや。

 そんな運命認めるわけねえぇぇ!





 だからこそから確認することにした。






 考える間もなく速いいかづちの一撃が茨鉄いばるぎをかすった。






 水状態の茨鉄いばるぎにとって奇跡的にかすってもその部分の血がふっとうするような熱さに体力をかなりうばわれる。






 戸塚剣縦とつかそうらは口を開いて猟銃りょうじゅう獲物えものをしとめるハンターのように言葉にしないよろこびを得ているのは分かった。





 仕込みは終わった。

 とりあえず茨鉄は遠距離攻撃としてイルカの形をした波飛沫なみしぶきで空に浮かんでいる戸塚剣縦とつかそうらへ当てようとする。





「飛び道具があるのか。でもそんな付け焼きでどうにかなる相手だと思っているのか? 」





 いくつもの雷をかまえたてのひらに装填そうてんした戸塚剣縦とつかそうら茨鉄いばるぎの攻撃を押し続ける。






「届かせるわけないだろ?あとリーチは俺が上なんだ! 」






 茨鉄いばるぎの真上から稲妻いなずまが落ち、更に遠距離攻撃を押されて2つの攻撃を食らった。






「ぱっとしねえな。色んな意味で。はっはっはっはっ! 」






 戸塚剣縦とつかそうら水蒸気すいじょうきが小さく振動しんどうしまわりをつつむ。





「なに?2つの攻撃からどうやって! 」






 すぐさま防御壁ぼうぎょへきを作り小さな水カッターから身を守る。





実戦経験じっせんけいけんは……ああ、プロだからはしょれたのか」





 この次元ホールに助けられたとはいえ水の力は思ったよりも制限が多い。

 相手も相手だしな。





 あらゆる水分が茨鉄いばるぎの身体を作った。






 そして同時に茨鉄いばるぎの身体半分を光がつらぬいた。






「あんたの小細工こざいくより俺の方が賞をとれるレベルってことを忘れんじゃねえ」






 今のは雷じゃない?

 さっきの防御壁ぼうぎょへきもそうだ。





 まさか11





「下手な分析ぶんせきはやめた方がいいと言ってみたかったが、あんた初心者のわりには俺の二段攻撃にだんこうげきから無事だったりいけ好かないなあ」






 戸塚剣縦とつかそうらは誰かを呼んだ。

 最初の戦いで聞いた使い魔の声か。

 しかし反応がなかったらしい。

 その隙を茨鉄いばるぎは逃さなかった!






 そこで戸塚剣縦とつかそうらは指先から広範囲こうはんいの光をときはなった。






「これも応用おうようだ。はしょったって一般人が……いや、それは凡人に失礼だったなあ!あんたじゃ勝てねえよ! 」






 戸塚剣縦とつかそうらが大笑いしているとほほに傷がついた。






「しぶといやつだ。まだ攻撃してくるなんて」





 それでもかすり傷は付けられた。

 血も少し流している。






 再び水蒸気から身体を作り茨鉄いばるぎは姿をあらわす。







 戸塚剣縦とつかそうらは一度考えてから何かをひらめいたらしく言いはなった。






「しかたがない。ここで消えてくれ」






 防御の隙もないまま巨大な光が茨鉄を一瞬いっしゅんでほうむった。






「ルマリアの手を借りる必要もなかったか。俺としたことが心配しすぎた。この程度ていどの相手に」






 水の次元ホールがほぼ蒸発していた。

 砂漠のオアシスがじつはまぼろしであったかのように。






「完全に水分をうばえなくてもここまでかわかせばうっとおしい復活も不可能だな! 」





 一人高笑いする若者だけがこの次元ホールにひびいていく。




「さてと。帰るか……」





 土と鉄がまざった味が戸塚剣縦とつかそうら口内こうないに広がる。





 うそだろ?

 表情にそう書いてある。




 茨鉄いばるぎはルマリアと言われた使い魔を水でつつみ人質ひとじちにして身体のどこも欠けることなく生きていた。

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