8月28日

 本日は七十二候の天地始粛てんちはじめてさむし。ようやく暑さも収まり朝や夜には涼しさを感じるようになってきた今日この頃、夕方になって郵便ポストを覗いた沢田は、中に放り込まれていたチラシを見てあまりの驚きで背筋が寒くなってしまった。


「郵便料金が値上げだって!」


 最近は物価が高騰しているのでこれもまた仕方がないのかもしれない。だが値上がり幅が凄まじい。これまでのハガキ料金の変遷を見ると40円→50円→60円と10円刻みだった。(消費税による端数は無視)だから今回は「70円かなあ」と思ったら80円超である。63円から85円だ。値上げ率34.9%!


「うへ~思い切ったもんだな」


 つまりこれだけ上げないとやっていけないのだろう、郵便物の量も減っているようだし。

 沢田は昔を思い出した。子供のころはクラスの男子全員に、と言っても20人くらいだが、年賀状を出していたものだ。だが年とともに出すのも受け取るのも減り続け、今では5枚しか出していない。内訳は親類2枚、知人2枚、自分1枚である。絵入り5枚セットを買うと1枚余るので自分宛に出しているのだ。


 もっともこれは沢田だけの減少ではない。年賀状の発行枚数はピーク時の半分以下になっているらしい。

 特に意味のない虚礼のために宛名や文面を書き込むという手間を掛け、1メッセージ数十円も払って届けてもらうなんてコスパが悪すぎる。今じゃメールで「あけおめ、ことよろ」と送ればいいのだから。郵便事業の衰退はもはや避けられぬ運命なのだろう。


「そして今回の値上げでますます数が減るんだろうなあ」


「あまねく公平に配達」という理念に無理があるのかもしれない。隣家に届けても、北の果てから南の果てへ届けても料金は同じなのだ。これは負担が多すぎるだろう。

 それに比べて某放送協会はどうだろう。同じく「あまねく受信できるよう放送する」という理念を掲げているのに財政的にはまったく困窮していない。職員の給与も桁違いだ。


「こうなったら某放送協会を見習って、規約を変えてみたらどうだろう」


 そうして沢田が考え出した新しい郵便事業の規約が以下である。


 ●受信可能な郵便受信箱ポストを設置した者は帝国郵便と契約しなければならない。(※注:受信とは「信書を受け取る」という意味である。)

 ●契約者は帝国郵便が定めた受信料を支払わなくてはならない。

 ●郵便物を全然受け取っていないからといって受信料の支払いを免れることはできない。

 ●契約済みであっても郵便受信箱ポストを設置していなければ郵便物は配達されず差出人に還付される。ただし受領印が必要な郵便物は配達される。

 ●正当な理由なく受信契約を申し込まなかった場合は2倍の割増金が請求される。


 こんな感じの規約にしたら郵便事業も赤字を出さずにやっていけるんじゃないかなあと沢田は考えた。ただし帝国民の怒りを大いに買うのは間違いないであろう。

 裏を返せば某放送協会がいかに利用者を蔑ろにした経営をしているかがわかるというものである。


「放送事業なんて明日廃業になっても全然困らないけれど、郵便はなくなると困るからずっと続いてほしいなあ。今年も年賀状を出す予定だし」


 などと、今日も自分勝手な妄想ばかりしている沢田であった。











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