8月29日
低収入底辺男の沢田ではあるが1日3食はきっちりとるようにしている。そのうちの2食は半合の白飯だ。だからと言って半合ずつ2回炊飯しているわけではない。1度に1合炊いて半合ずつ食べている。そうなると必然的に1食目は炊き立ての白飯で2食目は冷や飯になる。冷や飯もそれなりにうまくはあるがやはりホカホカの白飯を食べたい。そこで登場するのが、
電子レンジ!
である。
炊飯器の保温機能を使ってもいいのだが、1時間以上保温するなら電子レンジで温め直した方が安い電気代で済むらしいのだ。
大賢者ファラデが電磁誘導の法則を発見するまでは、食材の加熱は専ら魔石によって行われていた。今でも野外のバーベキューなどは魔石を用いた魔道具が活躍しており、沢田も正月になると七輪という魔道具で餅を焼いたりしている。
しかし電子レンジはそれら魔道具に比べて圧倒的に使い勝手が良い。個体でも液体でも容器に入れたままセットしてチンするだけだ。加熱時間は短く、魔石を用意する手間もない。
そんなわけで沢田も冷や飯を温め直すのに使っている。これまでは毎日使っていたのだが最近は米不足のため1日おきだ。昨日がうどんの日だったので今日は米の日。いつものようにチンしようとしたところ、
バチッ!
電子レンジの「あたためスタート」ボタンを押した途端、乾いた音がして部屋が真っ暗になった。
「停電かな」
外を見ると街灯も向かいの家の窓も明るい。真っ暗になったのは沢田家だけのようだ。停電ではなくブレーカーが落ちたらしい。
「どうして落ちたんだろう」
と思いつつブレーカーを戻して再度電子レンジのボタンを押す。
バチッ!
また落ちた。これはもう電子レンジが原因としか考えられない。配電盤をよく見てみると落ちているのは漏電ブレーカーだ。レンジの内部で漏電が起きているらしい。つまり壊れたのだ。
「あーあ、もう寿命か。買ったのは10年前だっけ。電子レンジの寿命は10年って聞いたことがあるけど、本当に10年目で壊れちゃったなあ」
それにしても実にあっけない壊れ方だ。昨日までは何の支障もなく使えていたのだ。なかなか加熱しないとか、変な音がするとか、煙が出ているとか、そんな症状があれば沢田も少しは心構えができていたのだろうが、そんな様子はまったくなかった。それだけに今回の電子レンジ突然死現象は沢田にとってはかなりショックだった。
「形あるものはいつか壊れる。この世に生を受け滅せぬもののあるべきか。まことにこの世は諸行無常だなあ」
電子レンジのような運命は誰にでも起こり得る。お気楽に生きている沢田にしても明日命がなくなったって少しもおかしくないのだ。いや、生物だけではない。このヤーパン帝国が、この全世界が、明日消滅したとしても少しもおかしくないのだ。そう考えると電子レンジが壊れたくらいでショックを受けていた自分が恥ずかしく思えてくる。
「それにレンジがなくたって何とでもなるよね。冷や飯は蒸せばいいし、冷たい飲み物は鍋で温めればいいし、冷凍食品は焼いたり煮たりすればいいし。うん、しばらくレンジを買い替えるのはやめておこう」
沢田は百均で購入した330円の折り畳み蒸し器を鍋にセットして冷や飯を蒸した。ホカホカしてそこそこおいしかった。
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