8月16日

 前回のあらすじ

 終戦記念日を迎えた沢田は大昔に勃発した世界大戦を回顧する。宰相に憑依した第六天魔王を追い払い、ヤーパン帝国の野望を食い止めることはできるのか!?


 * * *


「相手は第六天魔王であったか。このまま放置すれば世界は滅ぶであろうな」


 危機感を抱いたのはヤーパン帝国の国民だけではなかった。戦争を仕掛けられた国々もまた事の重大さを十分認識していた。

 第六天魔王はヤーパン帝国独自の魔王。ゆえにヤーパン帝国以外の国では、いかなる大賢者といえどもその詳細についての知識を持つ者はほとんどいなかった。言うまでもなく陰陽道に精通している者もおらず、東照大権現を顕現させることなどできない相談であった。


「あらゆる魔族を退けるという古代の禁術を用いれば、あるいは……」


 エルフ族の大魔術師オペンハイマは古代に存在したと言われる核子魔術の研究者だった。自然界には4つの魔力が存在する。電磁魔力、強い魔力、弱い魔力、重魔力だ。だが強い魔力を使った術式だけはひとつも存在しない。かつては存在したのだがあまりにも強力なため、禁術として封印されたという伝説が残っている。


「強い魔力を使うことができれば第六天魔王を魔界へ送り返せるかもしれない」


 大魔術師オペンハイマは以前にも増して熱心に研究を進めた。やがて重い核を分裂するか軽い核を融合することによって強い魔力を取り出し、強力な爆裂魔法を発動させられることを発見した。オペンハイマはさらに研究を進め、ついに超弩級分裂型爆裂魔法の術式を完成させた。


「これなら間違いなく第六天魔王を打ち滅ぼせる。だが……」


 大魔術師オペンハイマは躊躇した。あまりにも威力が大きすぎるため、たった1回の詠唱でヤーパン帝国の物的人的被害が甚大になると予測されたのだ。しかしこの術を使わなければ世界は第六天魔王に蹂躙され滅亡してしまう。選択の余地はなかった。


 その日、ヤーパン帝国の上空で2発の超弩級分裂型爆裂魔法が炸裂した。第六天魔王は魔界へと送り返され、ヤーパン帝国では多くの国民が命を落とし多くの町や村が焦土と化した。想定を超える被害の大きさに大魔術師オペンハイマだけでなく各国首脳も戦慄を覚えずにはいられなかった。この爆裂魔法も第六天魔王と同じく、世界を滅亡に導く危険性を持っていることは誰の目にも明らかだった。


「先人たちが強い魔力を禁術にした理由が理解できた。この術式は永遠に封印することにしよう」


 この提案に異を唱える者はいなかった。強い魔力を用いた爆裂魔法は禁忌の技と認定され、何人たりとも使用してはならぬと取り決められた。

 だが約束とは破られるためにある。それに一度手に入れた強大な力を簡単に手放せるはずもなかった。平和利用を名目にして強い魔力の研究は進められた。今では融合型爆裂魔法の術式が完成し、世界の数カ国が分裂型爆裂魔法の術式を保有している。もちろん使われることはない。爆裂魔法の使用は世界滅亡を意味するのだから。


「でもなあ、もし爆裂魔法の術式を保有する国に第六天魔王が降臨したら、なんか大変なことになる気もするなあ」


 沢田はお盆のお供えものであるおはぎを食べながらのんきにつぶやいた。食卓の向こうでは亡くなった祖母が呆れた顔をして沢田を眺めている。








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