8月11日
現在、沢田たちの世界ではゴリンピックが絶賛開催中である。ゴリンピックとは4年に1度、ゴリンピアという古代競技の聖地で開催されるスポーツの祭典だ。その様子は全世界に配信されているので、帝都から遠く離れた辺境地帯の片田舎に住んでいる沢田もお手軽に楽しむことができる。
ゴリンピックの競技種目は多種多様だ。単純に肉体だけを使って速さ、強さ、高さを競うだけでなく、魔力や魔道具を使って精神力の強靭さを競う競技もある。
「くは~、眺めているだけで元気が出るなあ」
沢田が好きなのはトーナメントで勝ち上がっていく競技だ。全勝すれば金メダル。負ければ銀メダル。そして3位決定戦に勝った者には銅メダルが与えられる。
普通ならば金メダリストが最も称賛されるのであろうが、沢田はむしろ銅メダリストのほうが好きだった。これは沢田の「強すぎるヤツはあんまり好きじゃない」という性格に起因しているのだが、実はもっと大きな理由がある。
「銅メダリストは主人公っぽい」
という点だ。
例として「強大な悪を倒す勧善懲悪ストーリー」と「気になる異性にアタックするラブストーリー」を考えてみよう。
主人公が無敗のまま敵を倒して世界平和のハッピーエンド。主人公のラブラブ作戦が全て成功してカップル成立ハッピーエンド。そんなストーリーを面白いと言えるだろうか。
勝ち続けてきた主人公があと一歩のところで大敗し絶望に陥るものの、仲間に励まされて立ち直り見事敵を倒す。強力なライバルが現れて意中の相手を奪われ失意のどん底に突き落とされるものの、ライバルの下心を暴いて見事に相手とカップルになって結ばれる、そんなストーリーのほうが盛り上がるのではないだろうか。
つまり主人公は全勝ではなく一度敗北する必要があるのだ。その敗北を乗り越えて勝利するからこそラストのカタルシスも大きくなる。銅メダリストはまさしくそれに該当する。王道の主人公と言えるだろう。
「それに比べて銀メダリストの切なさよ」
銀メダルほど悔しいものはないだろう。それまで無敗で勝ち進んでいながら最後に敗北するのだから。これはストーリー上の悪役とまったく同じだ。最強の悪、最強の恋敵、それまでは全勝を誇っていながらいずれも最後の最後で敗北する。負けなければ獲得できない銀メダルはめでたいには違いないが、素直に喜べない何かを感じてしまう。
「ボクもいつか勝てるといいなあ」
銅メダリストを見るたびに沢田は思う。これまでは負けてばかりの人生だった。きっとこれからも負けてばかりいるのだろう。だがそれは沢田に限ったことではない。勝ちっ放しのまま人生を終えられる者など皆無と言ってもよいのではないか。
社会的地位、財産、人間関係、健康問題、ヨムカク小説コンテスト全て一次落ち……生きていれば必ずどこかで負けがやってくるはずだ。挫折したり失敗したり道を誤ったりして心が砕かれてしまう時がやってくるはずだ。そんな時は銅メダリストを思い出そう。失意から立ち直り栄光をつかんだ彼らの歓喜の表情は、沢田だけでなく多くの者たちに元気を与えてくれるに違いない。
「でも、まあ、勝負しないのが一番いいんだけどね。戦わなければ勝ちがないかわりに負けもないから」
これまで同様これからも安直な人生を送ろうとする沢田であった。
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