1 month later
鹿
第1話 出会い
僕、
僕の家は、家族仲が最悪だ。両親ともに身体の相性だけで結婚相手を選んだらしい。僕を生んだのだって、所詮は中出しセックスしたかったからだ。避妊に失敗して、だからと言って中絶する勇気も無くて、それで産むだけ産んで、その後はネグレクト。
……愛も何もなしに育った僕には、知らない男の人のモノだけが、それを知る手がかりだった。身体を重ねた回数は覚えてない。幸い、先天性の障害で卵巣が無い僕は、都合のいい種付け用の穴だ。膣も、肛門も、たっぷりと白濁した愛を注がれて、僕は満たされたような感覚を覚えるんだ。『ああ、求められてる』って。
親の喧嘩から逃げるように、毎晩外へ出かけて、繁華街をさまよって、時に警察にお世話になりながら、運のいいときには三人くらいのグループを相手して、ラブホに連れ込まれて、イかされて、犯されて、気持ちよくされて、注がれて。物みたいに使われて、夜が明けるまでセックス三昧。でも、僕は喘げない。ただただ、男の荒い吐息ととちゅとちゅという愛液と精液の絡み擦れる音だけが響いて。
口でも、おっぱいでも、須股でも、もちろんお尻も、まんこも。或いは尿道にさえ、僕は愛を注いでもらった。……飢えていたんだ。愛に。それが例え純情でなくとも、性欲という生物的な衝動の上に成り立つものであっても、性愛という、愛の形であると。時にお金を貰って、時に物を貰って、時に宿を貰って。僕はそうして生きて来た。まともな生き方なんて、僕なんかにはとてもじゃないけどできなかった。
高校では、だんだん一人になっていった。僕に友愛を向けてくれるのに、僕の方から避けていた。多分、怖かったんだと思う。僕なんかに愛情を注いでもらうのが。あの人たちのように、明確な目的がある訳じゃなく、ただ仲良くなりたいからとか、そういう理由で近付いてもらえることが。どうしようもなく、虚無感に浸って、その度に男を求めて。ヤッて、ヤッて、ヤッて、ヤッて、ヤッて、ヤッて、ヤッて…………。
いつしか、潮を吹くたびに涙がこぼれるようになった。その度に相手に心配されるけど、笑って、抱き着いて、腰を振って、膣を絞って、誤魔化した。なんで? そう思ったけど、答えは明白。虚しいんだ、僕は。
ある時、青姦された。繁華街の路地裏で、二人の男に、口と膣を使わされた。それでも、僕は精一杯腰を振って、舌を動かした。ポルチオまで突き上げられて、喉奥まで挿れられて、潮を吹きながら、愛液を垂れ流しながら、涎を溢しながら、頬を、濡らした。そして精液を流し込まれた後、警官がやってきて、僕は被害者として事情聴取を受けた。それでも、両親は迎えに来てくれたけど、心配する言葉はくれなかった。
なんで僕は、物みたいに使われても何も思わないんだろうって、そう思った。でも、答えは分かっていた。両親が、ずっとそう扱ってきたから。
その時から僕は、涙を流さなくなった。ひたすら身体を重ねられるだけの、性玩具。そう思ってと、僕から言うようになった。どんなことでもしてあげる、って。
ハメ撮りされた時もあった。100回イクまで玩具を止めてもらえない時もあった。叩かれて、殴られて、蹴られて、首を絞められて……そんな暴力も、僕は受け止めた。僕の求めるものを、すこしだけ埋めてくれるような気がしたから。
SNSを使って、募集もした。これでも、父さんの遺伝で銀髪碧眼、母さんの遺伝で可愛い顔立ちと大きいおっぱい、それだけで引く手数多だったから、すぐに相手は見つかった。
ある時、クラスメイトから告白された。『ずっと好きだった』って言われた。でも僕は、何も思わなかった。僕が求めていたものが、目の前にあるのに。僕が付き返したのは、本当にクソみたいな言葉だった。
「じゃ、シよっか」
彼は童貞を失った。私はまた、注がれた。彼の愛は、本物だった。でも、泣いていた。『なんでそんな顔するんだ』って。
翌日、彼とは別れた。なにも、無かった。僕には、何も。
「はーい、今日はここまで! お疲れ様~」
物理の先生が教室を足早に出ていく。僕もノートを閉じて、昼ご飯を出す。毎日一人で作って、持ってきて、食べる。それが僕の生活。両親は教育だけは真っ当にしてくれた。道徳以外は、だけど。だから生活に困る事は無かった。
今日のメニューは、おにぎり。炊き込みご飯のおにぎり1個。僕には、それで事足りた。小食、というよりは体力が多い方だ。夜に男に奢って貰う方が、おいしいし家計の負担にもならない。今日はどのあたりをぶらつこうかと考えていると、足音が聞こえてくる。こちらに向かってくるそれに、僕は目線を動かした。
「すまねぇ、玖珠本。ちょっと所用があって、ついてきてもらってもいいか?」
僕に話しかけて来たのは、
そう思いながら、彼女に頷きを返す。彼女は、仄かな笑みを浮かべてから、背を向けて歩き出す。
「なんだろ」
「用事って言ってたし、美化委員会じゃない?」
「あー、そう言えば二人一緒だったね」
そう言えばそうだ。交代制で呼び出されるからほとんど顔合わせすることはなかったけれど、確かに僕は彼女と同じ委員会だった。
でもそれなら、わざわざ外に呼び出す必要はないはず。僕は警戒していた。
「あの…?」
彼女が連れて行ったのは、屋上前の踊り場。そこで、頬杖をついている。
「…………俺さ、トランスジェンダーなんだ」
突然の告白。僕は呆気に取られて、頷く事さえできなかった。
「なんていうかさ、前世っていうやつの記憶があって、実感があって、俺は男なのに女の身体だっていう感覚なんだ」
僕は、その情報量に圧倒される。何故、彼女はこんな告白をしているのだろう? 僕には分らなかった。
「……だから、その前世の経験から、分かるんだ」
彼女は、ゆっくりとこちらを向いて、淡々と告げた。
「お前、援交してるだろ」
1 month later 鹿 @HerrHirsch
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