胞衣の信仰
まじないに胞衣を用いる習俗は世界中にあり、それらのまじないの多くには胞衣を地に埋めるという行為が共通していることが知られている。
中国には水で洗い清めた胞衣に詰め物をして埋める習俗がある。
詰め物に用いられるのは、次に男児が欲しい場合は卵で、次に女児が欲しい場合は造花だという。詰め物をした胞衣は壺に入れ、虫や獣に食べられないよう厳封する。胞衣の入った壺を埋める場所については複雑な規則を熟知する巫覡や産婆が決めていた。
また紫河車という漢方薬は胎盤が原料であり、特に男児の胎盤を材料にした紫河車を飲むと男児が授かりやすいと信じられている。
シベリアからカナダに住むイヌイットにも胞衣のまじないが伝わっている。
彼らの文化には、ワタリガラスがこの世界と人類を作り出したとするワタリガラスの創世神話がある。カナダのイヌイットのある一族は、男児が生まれるとその胞衣をワタリガラスに食べさせるため屋外に晒し、女児の胞衣は波打ちぎわに埋められる。ワタリガラスに食べさせなくても、シベリアのイヌイットには高い木の幹に縛り付けたり、枝に吊るしたりする習俗がある。
インドで最も広く行われている胞衣のまじないは、胞衣を壺に入れて動物に食い荒らされないように深く埋めることである。
他にも夫が芭蕉の葉に後産を包み家の階段の下に埋めるミャンマーの習俗や、涼しい場所、水に濡れない場所など胞衣を埋める場所に条件を求める地域がある。
ヨーロッパには魔術に使われることを恐れて胞衣を焼く習俗が伝わる場所がある。またイタリアでは母乳がたくさん出るように、食物に混ぜて母親に胞衣を食べさせていたという。
現代ではプラセンタと名付けられたヒトやブタの胎盤由来抽出物を老化防止のサプリメントとして摂取してる人もいるが、医学的根拠に乏しいため、これも胞衣のまじないと呼んでよいだろう。
一方で胎盤に含まれている血液には造血幹細胞という血液の元になる細胞が多く含まれている。胎盤から取られた血液は臍帯血と呼ばれ、白血病や再生不良性貧血、ある種の遺伝疾患の治療に使われている。
胞衣のまじないは、様々な姿で現代にまで生き続けている。
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