怨霊
碧美安紗奈
怨霊
実家を出て仙台に住んでいた頃、久しぶりに福島の田舎に帰省していた時の出来事です。
その夜、自宅にはわたしと母親しかおらず、母は入浴中でした。
わたしは二階の自室にいて、なんとなくネットで怖い話を読み漁っていました。
そういう時間を過ごしているとちょっとした物音などで驚いたりもするのですが、まさにそんなときに家の電話が鳴ったのです。
ところで、この当時もう携帯電話は普及していたし、実家にはたまにしか帰らず、固定電話に掛かってきても家族が出ることが多く、わたしが出るとしても一階の電話機を使うことがほとんどで、二階の子機は使い慣れていませんでした。
しかし、たった今まで怖い話を読んでいたところへの突然の電話に驚かされたこともあり、親が風呂にいるため照明も消され静かな一階と、すぐ近くの二階を比較して、わたしは隣室の子機に出ることにしたのです。
電話を取り「もしもし」と言ったところで、最初の異変に遭遇しました。
受話器の向こうからはザーッという雑音がするのみで、応答がないのです。
何度か呼び掛けてみるも変わらず、さっきまで怖い話を読んでいたこともあり、わたしは「まさか」という嫌な予感を覚えました。
そして、必死に(これは超常現象などではない)と己に言い聞かせながら、きっと電話の調子がおかしいんだろうと子機をいじってみたのです。
すると、登録されている着信相手の名前などが表示される小さな液晶画面に、こんな文字が浮かび上がったのでした。
〝オンリョウ〟
わたしはゾッとして、危うく叫びそうになりました。
が、戦慄しながら数秒考えて理解しました。
音量調整ボタンを押していたのです。古い電話機なので、カタカナ表示しかできないものでした。
使い慣れていない子機と焦りのため、どのボタンがなにでどう機能するかがよくわかっていなかったのです。それでてっきり、怨霊からの電話かと思ったのでした。
後に、電話の相手は母親の友達で、向こうにはこちらの声が聞こえていたと判明。
雑音はおそらく、たまにある電波障害によるものだったのだと思います。同様の電波障害も片手で数えるほどですが前例はありましたので。ただ、それがこのときに限って重なったのは奇妙な偶然といえるかもしれません。
怨霊 碧美安紗奈 @aoasa
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