第4話 お前は一体何者なんよ

 ———楽しくない、思った10倍楽しくなさ過ぎる。


「エル、何も楽しくない、帰りたい」

「社交界とは、そういうものですから我慢してください」


 絵やアニメでみる煌びやかな舞踏会場のような場所に通された俺が、如何にも媚びた様子で近付いてくる輩共と子供達に睨みを効かせて追い返したのち。

 1人で飯をつつきながら、こちらの機嫌を窺うような周りの視線に辟易して大きなため息を吐く俺に、エルが注意し。


「次そのようなことを言われましたら、当主様に言ってヘレナ様との時間を減らし」

「俺、文句言わない。ちゃんと最後までやり遂げる。だから父上に言わないで!」


 ヘレナは俺の推しなんだ。

 ヘレナとの時間を奪われたら死ぬ。

 

「そもそも、オルガ様に封印された邪神様が何を起こすか分からないから今まで免除されていたのです。……どうなのですか?」

「うーん……うんともすんとも言わんよ?」


 ほんと俺の身体に邪神が封印されてるのか問い詰めたくなるくらい無反応なんだよな。

 良い加減少しは反応してくれよ。

 封印した俺が言うことではないんだけど。


「はぁ……こんな堅苦しいと、飯も美味く感じねーなぁ……」


 ポツリと呟く。

 エルやレル、父さんや母さん達と食べるご飯はめっちゃ美味いのに、その時より高い飯のはずなのに、何故こんなに不味いんだろうか。

 こんな会をやる奴の気が知れねーな。


「エル、俺は暇だしちょっと外の空気を吸ってくるな」

「逃げないでくださいよ?」

「逃げねーよ」


 そんな軽口を小声で交わしたのち、俺はベランダへと歩を進めた。








「———あぁぁぁ……疲れたぁ……。普通に暇すぎて死ぬ……帰りてぇ……」


 ベランダの石で出来た柵みたいな所に、腕を付きながら疲労を吐き出す。

 たまに吹く風がただでさえ冷え切った俺の身体を更に凍えさせる。

 決して今が冬になる前だからと言う理由だけじゃない。


 正直ヘレナを引き合いに出されてなかったら帰ってたかも。

 とにかくあの空間の空気は濁ってて……ゴミ溜めみたいだ。

 邪神の魔力よりよっぽど汚れ……。

 

「てか何だよ。どいつもこいつもこの年で打算を隠さず迫ってくんなよ。子供はもっと自由で何も考えずに遊ぶもんだろうが」

「———マジでそれ。貴方と全く同じ意見よ、オルガ・ダークネス・フォン・レーヴァテイン?」

「何やつ!?」


 突然後ろから声を掛けられ、反射的に裏拳が飛びそうになるも。



「———あら、この私にそんなことして良いのかしらね?」



 相手の姿を捉えて既のところで止める。

 そして相手にジト目を向けつつ、口を尖らせた。


「……俺に何の用だ、アナスタシア・ホーリー・フォン・アポロニアン?」

「少し貴方と話がしたかったのよ、2人きりでね?」


 ここで勘違いしちゃいけない。

 こいつの2人きりでの話し合いは、絶対に色恋沙汰にならないことくらい分かっているからな。


「……お断りだ。どこに相手勢力の女と仲良く会話をする奴がいる?」

「それは……まぁそうね。でも、別に貴方のお父様と私のお父様が険悪な仲なわけじゃないじゃない。2人が学園時代は親友だったって聞いてるわよ?」


 おっと、初耳ですよ父さん。

 そういった大事なことは言ってくれないと。


「……でも父親は父親だ、お前と俺は仲良くも何ともない。だから悪いが俺はお前に関わり合いたく……」

「その話し方疲れない? 私には普段通りで良いのよ? ———前世と同じように」


 …………。


 ……今こいつ何て言った?

 とか言わなかったか??


「……おいお前、一体何者なにもんだよ? そう言えばさっきも『マジ』とか使って……」

「あら、どうやらその反応からして転生者のようね?」

「!? まさかお前も転生者なのか!?」


 俺が若干の期待を篭めてアナスタシアを見れば。


「ええ、そうよ。私の前世は日本の女子高校生だもの」


 アナスタシアも嬉しそうに笑みを讃え、明らかに転生者でなければ知らない単語を口に出した。


「ただ転生者にしては……ちょっと呑気過ぎないかしら?」

「初対面のくせにくそ失礼じゃんこいつ」


 お、調子乗んなよコラ。

 こちとら邪神を封印したオルガさんだぞ?

 俺の名を聞けば、大抵の奴はビビって素足で逃げ出すぞ?

 まぁ邪神の力は一切使えないけど!


 そんな意志を篭めて、俺が生意気な美少女にガンを飛ばすと。




「———だって貴方、3年後に死ぬわよ?」




 そんな、とてもじゃないが聞き捨てならないことを告げたのだった。

 

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