第3話 初めての社交界

「———オルガ、話とは……悪い知らせだ」

「よし、俺はヘレナと遊んでるから父上、後はよろしくお願いします」


 様々な本が本棚に整頓され、扉の対角線上に高そうな机と椅子があり、そこに父さんが座っていた。

 俺は神妙な面持ちな父さん姿に執務室から回れ右しようとするも。


「「逃しませんよ、オルガ様」」

「出たな、毎度俺の障壁と化す双子コンビのエルとレル……!!」


 青髪碧眼の瓜二つの美人系メイドが扉の前で通せんぼする。

 2人の見分け方は、一見難しそうに思えて全く難しくない。

 とある部分が豊満な方がエル、慎ましやかな方がレルだ。


「誰が貧乳ですか?」

「言ってない言ってない」

「レル、オルガ様に失礼ですよ」


 俺の思考を呼んだかの如く詰め寄るレルだったが、コツンッ、とエルに頭を小突かれて頭を押さえる。


「痛い……。私、これでも貴族……」

「悪いなレル、お前より俺の方が爵位が高いのだよ」

「む……。侯爵家の当主は公爵家の子息より立場は上ですけど?」


 あ、そうなん?

 ならごめんなさい。


 こうした軽口を叩き合えるくらいには、俺とエルとレルは仲良しである。

 そして今の会話から分かるように、2人は侯爵家の当主なのだが……何故かこの家にメイドとして留まっている。

 いやホントに何でか知らんけど。


 そんな俺達の姿を見ていた父さんは……何と俺が逃げる前に口を開いた。



「———オルガよ……お前も遂に社交界に出なければならない時が来た」

「げっ……」



 思わず声が漏れた。

 しかし逃げようにも、後ろからエルとレルが俺の腕をガッシリ掴んで離さない。

 片方は柔らかく、片方はスト———。


「……レル、痛いんだが」

「私の方をチラッと見て残念そうな顔をなさるオルガ様が悪いのです」


 おっと、失敬失敬。

 あまりに社交界が嫌すぎて巫山戯てしまった。


 ———社交界。

 簡単に言えば、貴族同士の交流の場。

 そこにはそれはもう貴族達の思惑が入り混ざる真っ黒な場所だ。


 本来10歳で行かないといけないのだが……俺は状況が状況だったので、父さんがこの2年間は何とか出なくて良くしてくれていた。

 しかし、流石に今年は父さんでもどうしようもないらしい。


「……い、嫌だなぁ……」

「まぁそう言うな。そもそもお前は社交界に出てないせいで全く同年代の友達が居ないだろう?」

「要らないですよ。どうせ俺に近付いてくる奴なんて親からの命令で打算まみれに決まってますって」

「お、お前の中の貴族は……」

「上に行くために邪魔な奴は蹴落とし、味方になりそうな奴には媚を売る軸のない輩」

「「「…………」」」


 おっと、どうやら3人とも俺の言葉にドン引きしているみたいだ。

 いやでもさ、俺の言ってることはあながち間違いではないですやん。


「ま、まぁエルとレルは信頼してるよ? だって2人は俺に媚び売っても意味ねーし」

「それは……そうですね。オルガ様はそういうのが嫌いって言ってますし。ただ、私の貧乳いじりはやめて欲しいですね」

「してねーよ、自意識過剰なんだよ」

「な、なにおう! なら私を巨乳と言うのですか!?」

「「それはない」」

「酷いですよーっ!」


 まぁ落ち込むレルはさておき。


「父上、社交界はいつなのですか?」

「おおっ、行ってくれるのか!」


 まるで俺が屁理屈を捏ねて拒否するとでも思っていたと言わんばかりに喜ぶ父さんは。



「———今日の夜からだ」



 そう、告げて来た。


 ……もしかしたらウチの父親は、脳筋バカなのかもしれない。


 






「———苦しっ。タキシードってこんなに苦しいもんなのかよ?」

「普段からオルガ様がダボダボの服を着ていらっしゃるからですよ」


 父さんに告げられた夜、馬車に乗って移動している途中で、俺は首元の締まり具合がどうしても気になって顔を顰める。

 そんな俺に当主としてやって来たらしいドレス姿のエルが我慢してください、とでも言うように苦笑すると。


「オルガ様、もう見えてきましたよ」


 窓の外の豪邸に目をやる。

 釣られて視線を移せば……黒を基調とした重厚で荘厳な我が家とは真反対の、金や銀を基調とした煌びやかで豪華絢爛な豪邸が姿を現した。

 そんな豪邸に、家紋が描かれた沢山の馬車が吸い込まれていく。


「へぇ……。ここがアポロニアン公爵家の屋敷か……見た目が五月蝿い」

「オルガ様、外でそのようなことは絶対言ってはいけませんよ?」

「分かってるって」


 俺は馬車が止まったのを感じて立ち上がり、エルが開けた扉から外に出る。

 外には燕尾服を身に纏った執事とメイド数人が待機しており、こちらに礼をしていた。

 そして、そんな彼らの前に、俺と同じくらいの歳だと思われる……綺羅びやかなドレスに身を包んだ1人の銀髪赤眼の美少女が、凛とした雰囲気を纏って佇んでいた。

 とても子供とは思えぬクールで怜悧そうな見た目と雰囲気の彼女は、


「ようこそおいでなさいました。私はアポロニアン家長女のアナスタシア・ホーリー・フォン・アポロニアンですわ」


 そう言ってふわっと笑みを浮かべて貴族令嬢式の礼をする。

 どうやら目の前の美少女が、俺と双頭をなす神童らしい。

 ただ、礼をされたからには、こちらも何もしないわけにはいかない。


「俺はオルガ・ダークネス・フォン・レーヴァテインです。この度の招待、誠に感謝します、アナスタシア嬢」

「エルレイル・フォン・ダーインスレイブです。この度は、レーヴァテイン家当主に代わり、オルガ様の付き添い兼ダーインスレイブ家当主としてやって参りました」


 俺達も同じように礼をする。


 どうせこの時から貴族同士の腹の探り合いが始まるんだろう。

 ま、今の俺には心底関係のないことだ。

 こういうのはエルに任せよ。


 そんなことを思いつつ、俺が目の前の美少女から意識を逸らしたせいか。

 はたまた緊張していたせいか。

 まぁ何にせよ———。




 ———アナスタシアという名の美少女がこちらを注視していることに、俺は一切気付かなかった。




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