第9話 仲間


「……んっ」

目が覚めた。慌てて飛び起き、いつもの癖で周りに人がいないか確認するが、長い奴隷生活からついに解放されたことを思い出し安堵する。


今まではいつ男たちに殴られてしまうかわからない生活だったのでずっとビクビクしながら過ごしていた。なのでこんなに深い眠りに落ちたのは実に三年間ぶりだろう。


「すっごいふっかふかのベッドだった…こんなベッド初めて……。」



落ち着いて周りを見回すと、自分がベッドなど家具一式がそろった豪華な部屋にいることに気が付いた。これも彼の能力によるものなのだろうか。


昨日は助けてもらったことの安心により緊張の糸が切れてしまい、お礼も言えないまま眠ってしまった。最低だ。


彼は何者なのだろうか……

昨日のこと思い出して考える。敵意や悪意といったものは感じ取れなかったが、底が知れない怖さがある。



ふと机に目を落とすと、綺麗な字でメモが書かれていた。


〈起きたら、お風呂に入って、着替えて下に降りてきてください。服はクローゼットに入っているもので気に入ったものを着てください。〉


……確かにずっと体なんて洗ってなかったし、着ている服もボロボロだ。


そう思いクローゼットを開けると、あまりの服の多さに思わず絶句してしまう。


「こんな量の服私にどうしろって言うの……!!!!!!」









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あの戦いから亜空間の時間で二週間が経った。


女の子は相変わらずずっと寝ている。二週間も寝てられるの⁉と思ったがその辺は異世界なので何も問題はないらしい。心配でシルキーに診察してもらった(俺は部屋に入ってない)が言うには疲れているだけなのだそう。なのでとりあえず、後はシルキーさんに任せることにした。


……その間俺は何をしていたのかって?


ふふふ、よくぞ聞いてくれた。その間も俺はしっかりと働いていたとも。

ただ、二週間といっても現実では十四時間ほどなので、また山に行って、レベル上げと資源採集を実施した。


そしてそれを町で売りさばくことによって当分の資金は確保することができた。

あの山は誰も立ち入らないらしく貴重な資源がたくさんあったらしい。マジでもったいないと思う。



「ただいま~。」


ようやく仕事(?)が終わり、亜空間に帰るとオレンジ色の髪の毛をした女の子がちょこんとリビングに座っていた。




誰?







「お、おはよう御座います。先日は助けていただいて本っ当にありがとうございました!」


ああ、この前助けた女の子か。そういわれてみれば似てるかも。髪の毛の色は煤で汚れてよくわからなかったけど、こんなにきれいな色をしてたんだ。服もめっちゃ似合ってるし。


「いや、別に大したことないから大丈夫だよ~。ところで何か痛いとことかない?大丈夫?」


「はい、カオル様のおかげでもう体調もばっちりです!温かいお風呂にも入れて、こんなにきれいな服を着られて、人生で最高の日です!」


「そんな、カオル様、だなんてかしこまらなくてもいいよ?それより、おなかすいてない?」


「い、いえ私はべつに__」


グゥゥゥウウウ

案の定、彼女のおなかが派手に鳴り、赤面してしまう。


「す、すいません…。」


「いや?よし。じゃあ、今からご飯にしようと思うんだけど、一緒に食べる?」


彼女の顔がパァァと明るくなる。

……可愛いな、こいつ。









寝起きでどの程度ご飯が食べれるかはわからないので、一通り作ってみることにした。



トマト似のトマトゥが入ったスクランブルエッグ、キャベツ似のキャベチと卵のとろみスープ、玉ねぎのドラゴンの肉詰めetc…


とにかく体によさそうなメニューをセレクトした。

だが、彼女はそれでは足りなかったらしく、秒で平らげてしまった。


ならば、と俺は厚く切ったドラゴンを大胆に焼く。

調味料も購入したので、塩コショウと香草を振ってみた。


「どうぞ、ドラゴンの香草焼きです。」


「ど、ドラゴン⁉そんな魔物をどうして?」

「いや?そこの山にわんさかいたよ?まあ、一回食べてみ?美味いから。」


若干怪しんでいたが、恐る恐るといった感じで肉を口に運ぶ。


「お、おいしい……!なにこれ⁉」

「ドラゴンだよ?」


「こんなにドラゴンがおいしいなんて……。」

そう言いながら、彼女の箸は止まらない。気にいってくれたようで何よりだ。



結局、作った料理は二人ですぐに平らげてしまい、綺麗になくなった。






片付けが終わり一息ついてお互いに向き合う。


「あのさ……」「あの…」


お互いにかぶってしまう。


「あ、先にいーよ。」


「あ、いや、あの、えーっと……、これからの旅に、私も連れて行ってくれませんか!私魔法も使えるし荷物持ちでも何でもするので一緒に連れて行ってください!」


俺は思わず笑ってしまう。

「はっはははははははは…」


「な、なんですか?」

「いや、今俺も同じこと言おうと思ってたんだ。じゃあ、改めてこれからよろしくね!」


「は、はい!」


こうして俺に初めての仲間ができた。




「ところで、名まえはなんていうの?」

「名前……、お恥ずかしい話、今までずっと奴隷だったもので、名前がないんです。もしよかったら、私に名前を付けてもらえませんか?」


「俺でいいの?んー……じゃあ、「カエデ」とかはどう?」


「カエデ」は、カエデのオレンジ色の髪の毛から名付けた。安直すぎるだろうか?


「…カエデ、とってもいい名前ですね!ありがとうございます!!!!!!」


喜んでもらえたようでなによりだ。
















……え、カエデさん魔法使えんの?



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