第23話

 広場には桃太郎がいました。

 斬瑠璃姫ざんるりひめの姿に顔を綻ばせ、優しく語り掛けます。


「良かったのか? 刻んだものが消えたぞ」


 斬瑠璃姫は右手で左の頬にそっと触れます。

 そこには人らしい皺はなくツヤツヤとしていました。


「おじいさんと共に刻んだものはここにあるさ」


 頬から下げた右手の中指で、自身の胸元をトントンと2回たたきます。


 初めて出会ったとき、お互いに一目惚れをした。あの瞬間を思い出しました。

 人らしい生き方を選んだはずが、お互いに出会った頃のままの姿に戻っています。


「俺が心を決める時間を稼ぐ為に、芝を刈ったのか」

「おじいさんに怒られる覚悟はしたさ。でも、あの祠で十分だろ?」


 敗北を許せなかった桃太郎は己に戒めを課しました。

 尻子玉と呼ばれるものの再生は、己の意志で封じていたのです。


 その状態で自力にて河童を打倒する為に。

 己の弱さと向き合う為に。


「ああ、気を遣わせた。俺はまたこの山に聳えるよ。アイツらの眠るこの山に」


 山神になる前に共に過ごしていた相棒達3匹を思い出します。

 桃太郎にもはや迷いはありませんでした。


「それでいい。迷うな。前へ進め。輝いていてこその桃太郎だ」


 輝いてみえているのはお互いさま。


 それは相手の目を見ればわかります。


 ふたりはそのまま山の深層へと、寄り添って踏み入りました。


 人里へは二度と戻りませんでした。


 夜が来て。

 そしてまた陽が昇ります。


 朝から獣達が賑やかに騒ぎます。


 犬猿雉が大いに繁殖したこの山は、真の主の復活を喜ぶように、新しい今日を眩く照らすのでした。


 おしまい。


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 以上、読んでいただきありがとうござました。

 よかったら↓の☆☆☆を★★★にして星を入れておいて貰えると嬉しいです。


 あと記念に本作をAIトークソフトで朗読させてみました。

 時間のあるときにでもどうぞ。8分18秒ぐらいです。


 いやぁ、たったこれだけでも動画にするのって大変ですねぇ。

 ではまた次の機会に~。


・ニコニコ動画

https://www.nicovideo.jp/watch/sm44013556

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【全23回】サクサク読める桃太郎【カクヨム夏の毎日更新チャレンジ】 三毛狐 @mikefox

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