推理をしない探偵

 

第1話

 山奥のホテルで殺人事件が起こったということで、ベテラン刑事の浅野と新人刑事の渡辺は現場に駆け付けた。しかし捜査は行き詰まってしまい、浅野の知り合いの探偵を呼ぶことになった。1時間後、探偵はホテルに姿を現した。


「こ、こんにちは。探偵の中原です」


 探偵は20代の女だった。ショートボブで背が低く、おどおどして探偵には全然見えない風貌をしていた。


「浅野さん。この子が探偵ですか? とても推理ができるようには見えないんですが……」


「そうだよ。彼女、推理をしない探偵なんだ」


「は?」


 探偵は浅野に近づくと、耳打ちした。


「いいよ。犯人は誰なんだい?」


 浅野はやさしく探偵にそう返した。そして、探偵は容疑者の一人を指差した。


「あ、あの人が犯人です」


「わかった。ありがとう。報酬は月末いつもの口座に送るよ」


「ありがとうございます」


「ちょっと待って下さい。なんで犯人を断定できるんですか?」


「それは……」


 浅野がそう言いかけた瞬間、探偵は彼の口を手で塞いだ。


「……事件現場にいる霊に教えてもらってるんです」


 浅野はその発言を聞いて、驚いたような反応をした。それから探偵は、浅野を渡辺や容疑者達から引き離すと、二人でこそこそと話をした。そして話が終わると、浅野は拳銃を引き抜き渡辺に銃口を向けた。


「浅野さん、何やってるんですか?」


 渡辺がとぼけたように浅野に訊ねた。


「この子は霊に犯人を教えてもらってるんじゃない。人を殺した人間をオーラで認識してるんだ。……渡辺、お前人を殺したことあるだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推理をしない探偵   @hanashiro_himeka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ