第35話 彼のやんわり無力感
浅田邦彦は難しい顔をして南方圭介を見ていた。市内の病院、四○一号室。六人部屋の一つのベッドに南方圭介は寝ていた。その脇には花と、誰かがおいて行ったらしい果物が入ったかごが置いてある。浅田邦彦は、いっそのこと殴り飛ばしてやろうかとこの病室を訪れていた。
宇宙人、イガカ星人の顛末についてはレイチェルから聞いた。イガカ星人は半ば南方圭介と刺し違える形で散っていったと。
仮にも自分と親交があり、友とまで呼んでくれた宇宙人達。そんな彼らを殺したとあれば、憎くてもいいはずだが、こうして目の前で包帯と点滴の管に全身を包まれている姿を見せつけられては殴る気すら失せる。
突如、公の場に姿を現し、破壊の限りを尽くした円盤。死者は幸いにもでなかったが、負傷者と建物の損害は計り知れない。それを、あの宇宙人たちがやったのだ。
何が正しかったのか、よくわからない。
南方圭介は確かに宇宙人たちを殺した。許されることではない、そうであって欲しかった。だが、やつらは現にこうして町を破壊しているのだ。ともすれば、テレビのヒーローに相違ないことを彼はやったのだ。
「おれの言葉は、届かなかったのか」
彼らが最後に選んだ道は悪人だった。最後の最後、改心してくれるのではないかと期待していた。だが、現実は非情だった。
テレビでもさすがに報道されている。だが、円盤の話はあくまで噂、ということになっている。おそらく、高校生では想像もつかない、大きな力が動いているのだろう。
――大きな力。自分では太刀打ち出来ない力と、この数日間で何度もぶつかり合った。
牧場を襲った円盤と戦うことができなかった。
南方圭介とは喧嘩でも勝てない。
イガカ星人と圭介の戦いを止めることはできなかった。
カケルニットを救うことができなかった。
イガカ星人たちを、犯罪から遠ざけることができなかった。
「くそっ!」
無力感に苛まれ、浅田邦彦はベッドの縁、金属のフレームを叩いた。拳の痛みが遅れて、じんわりと響いてくる。
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