第24話 到来

「つまり、大体の準備が整った、そういうことだな」


 男は携帯電話に向かって言う。直立不動、手ぶら。ただ、くたびれたシャツに茶色のベスト、ふと吹いた風に中折れ帽をかぶり直す。相手の言うことにこくこくと頷き、わかった、とだけ言うと電話を切る。


 ふむ、と鼻息あらく空を見上げれば、少々曇り空。男の眼鏡に曇天が反射する。そして、あたりは相も変わらぬどこか閑散とした駅前に嬉しいような寂しいような。


『上根花輪駅』


 おなじみの評語並ぶ駅舎に帰ってきた感覚が蘇る。駅正面の時計の時刻は二時二十分。自分の時計でもそれを確認する。いつもふらりと訪れる彼へ、もちろん迎えの車は来ない。


 それでいい。考古学者は動いてこそだ。


 男は駅から歩き出す。

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