第22話 戦士

「遅かったじゃねえか」


 空き地。正午前、民家は遠く、休耕地と土地の持ち主の関係で空いている田畑の広がるそこに、南方圭介は自転車を脇に仁王立ちしていた。


 その向かい、浅田邦彦を連れ、黒人風の男がいた。風が吹き抜けると、その姿は銀色に黒縞のイガカ星人タセルニットに変わっていた。ひい、と浅田邦彦は悲鳴を上げる。


「友を探すのに時間がかかったからな。待たせて悪かった」


「てっきりおれの意図に気づいてもらえてなかったのかと思ったぜ」


「それは問題ない。お前の挑発、確かに受け取った」


 タセルニットは静かに言った。昨日、円盤の足元を執拗に走り回ったのは、純然たる挑発だった。


「わたし以外の二人はエンジニアと船長だ。だが、わたしは純然たる戦士。挑戦は受けて立つ」


 そういって拳を握り、ぐいと構えた。圭介は、無構え。圭介も大柄とはいえ、タセルニットにはかなわない。さらに、広い肩幅隆々の筋肉、それだけで何倍もタセルニットのほうが大きく見える。


「わたしはイガカ星人、名はタセルニット。お前は」


「南方、圭介だ」


圭介はそのまますたすたと歩みゆく。と、タセルニットが、消えた。否、圭介の眼の前にあってその拳を突き抜いていた。その右腕に、圭介の腕が絡みついていた。えいとそのまま相手の体を背負い投げ飛ばす。


それを空中で対をひねり強引に両足をつくタセルニット。そのまま左腕を振りぬく。それを鮮やかに捌き圭介が拳を放つ。その一撃、タセルニットは頭正面でがんと受けた。虚を突かれた圭介へ容赦の無い肘打ちが叩きこまれ、ふらりふらりと後退する。さらに躍りかかるタセルニットだが、はっと気付いて後ろに飛べば、その場を圭介の回し蹴りが切る。ふらついた振りで寄せつつ、その足はしかと地を踏みしめていたのだ。


その踏みしめた足で地を蹴って、素早く三連殴。その全てを両腕で守り、極太の腕を叩き込むタセルニット。間一髪、体をスウェーし拳を叩きつける圭介。ごっ、と音がしたが致命傷には至っていない。何事もなかったかのようにタセルニットは拳をふるう。半歩下がれば当たらない。拳、否、全身をもって体当たり。圭介の体がタセルニットに沈み、吹き飛ばす。更に追撃、ふらりと立ち上がった宇宙人へ、渾身の蹴りを構える南方圭介、そこへ。


『タセルニット! 何をしている!』


 割っていったのは三脚式円盤。その足でもって二人を分かつ。さらに、圭介の背中に声がかかった。


「圭介! 何やってるの!」


 木鈴のような声。〈カミノネゴウ〉だった。例のごとく、レイチェル・ミズシンが手の中に。くそ、学校サボるなよ、と圭介は毒づいた。一方で、


『早く乗れ!』


 三脚式円盤がその足を折り、ハッチを寄せる。タセルニットはえいと跳び、そのハッチにしがみつく、所をしかし、南方圭介は見逃さない。自身もまた三脚式円盤によじ登り、そしてタセルニットを蹴り落とした。そして閉まらぬハッチに身をねじ込む。そして閉める。唖然とする宇宙人と地球人、そしてロボットを置いて。

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