第18話 心配事
「圭介!」
ロボットは大声を上げ、森のなかを走った。その手の中には金髪の少女レイチェル・ミズシンがおり、片手にキャリーケースをもった妙な格好である。ロボットはひたすら、えぐれた地面となぎ倒された木を頼りに走る。浅田邦彦の父の牧場、その傍の山の麓の森。
「あ、あれ!」
唯一の光源といえばロボット〈カミノネゴウ〉の頭、その瞳が煌々と燃え上がる瞳のみ。それでも辺りは不思議と明るく、ゆえに文字通り木っ端微塵の木片の中に大柄の少年を認めることができた。
「圭介!」
ぼん、ぼん、ぼん、と〈カミノネゴウ〉は足を止め、圭介に近寄った。どこかバツが悪そうに顔を逸らしている。〈カミノネゴウ〉はそっと手をおろし、少女を地面に立たせた。
「どうしてこんなところに?」
木鈴のような声が涼やかに鳴る。少年は答えない。
「ねえ、あなた、無事なの?」
身を案じる様子のない〈カミノネゴウ〉に変わって少女は言う。
「あんなもん、おれ一人で倒せる。怪我なんざするか」
大した自信。吐き捨てるように少年は言う。
「圭介、僕にもしかして、嘘を」
「うるせえ。たまたま散歩してたら変なもん飛んでるから物見に来ただけだ」
土埃にまみれた姿で言われても説得力はない。
「ちゃんと話してよ。ここに来るまでにレイチェルさんともきちんと話したんだ。どうして」
「うるせえ! お前もあんたもぺらぺらと。黙ってろ関係ねえ」
その有無をいわさぬ静かな眼光に、レイチェルも〈カミノネゴウ〉も閉口した。
「あんたは明日から学校だろ。早く帰って準備しな。ゴウ、しっかり届けてやれ」
「そりゃ、もちろんだけど」
〈カミノネゴウ〉は不満げに言う。
「ならいい。おれはちょっと買い物でもして帰る」
そういって圭介は自転車を転がし森の奥へ消えていった。
「うん、わかった」
背中へ話しかける〈カミノネゴウ〉の声はどこか暗い。レイチェルはその金属の拳がきつく結ばれているのを見逃さなかった。
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