第14話 人間と
南方家。ようやく帰ってきた圭介へ、〈カミノネゴウ〉は興味津々、どっしどっしと庭から顔を出す。
「遅かったよ圭介。もう夜だよ。ご飯でもごちそうになってたの?」
「あー、まあ、ちょっとな」
そういって家の中へ。そしてしばらくすると、二階の窓が開いて圭介が顔を出す。
「レイチェルって留学生と喋ってきたぞ」
「ホント?」
〈カミノネゴウ〉は目を輝かせる。その頭部の奥、燃え盛る瞳がらんらんと。
「ああ。そういえばお前は喋ったこともなかったっけ」
「そうだね。僕は助けを呼んでくるって声をかけたけど、返事はもらってないや」
「そうか」
そういって圭介は黙りこんだ。
「どうしたの?」
〈カミノネゴウ〉は圭介の顔をのぞき込んだ。
「いや、なんでもない。そうだ、宇宙人の話なんだがな」
「うん」
「あいつらはやっぱり、もう宇宙に帰っているらしい」
圭介は言った。
「宇宙船も、おれたちが壊してやっただろう。修理自体はすぐに終わるから、それで懲りて宇宙に帰ったらしい」
「そうなんだ」
どこか落胆したように〈カミノネゴウ〉はいった。
「別にいいだろう。これでこの辺りが騒がしくなることはなくなったんだ」
「うん。そうだね」
そうはいうが、彼の顔はどこか晴れない。
「ところで、レイチェルさんって何者だったの?」
鋭い質問だ。圭介は一瞬迷った。
「どうやら、あいつは宇宙人を追ってここまできたらしい。おれにも、詳しいことはわからない」
そうだったんだ、と漏らす〈カミノネゴウ〉
「どうした?」
「ううん。大丈夫。でもさ、僕らがいなかったレイチェルさんはどうするつもりだったんだろうなって。ずっと戦ってきたのかな、一人で」
「さあな。それはおれたちの知った範囲じゃない」
「でもさ、僕がお役に立てたのなら、いいなって。また、何かあった時、手伝えたらいいなって」
〈カミノネゴウ〉は空を見上げた。
「もう立っただろう。だからそれで十分だ。そうだろう」
圭介は少々強引にそういった。
「まあね。もう、次がないならそれでいいんだけど。でもね、もしもの話だよ」
「冗談言うな。あんなのまた来たらたまったもんじゃない。とにかく、あいつらはもういなくなったんだ。下手に関わろうとするなよ。浅田の家にも行くな」
「行きたくてもさ、浅田くんのお父さんが怖いんだもん。しばらくは僕も近づけないよ」
「そうか。そういえばそんなこと言ってたな。よかった」
圭介は心底安心したように言う。
「あと、レイチェルさんにもあんまり見られるなよ。前にも留学生がこの辺りに来た時、お前、随分と話題になってたじゃねえか」
「わかったよ。気をつける。だけどさ、なんか圭介、変だよ?」
心配そうに〈カミノネゴウ〉は言った。
「そうか? じゃあおれは戻る。腹も減った」
圭介は〈カミノネゴウ〉に背を向ける。
「ねえ、なんでひすいちゃんには嘘をついたの?」
「何の話だ? 否、あれか、おれたちは何も見なかった、レイチェルは牧場で何故か倒れていたってやつか」
浅田の牧場で倒れていたレイチェルは確かに円盤に追われていた。しかし、圭介は円盤のことは一切語らず、レイチェルは牧場で何故か気絶していた、貧血かなんかだろう、とひすいに言っていた。
「あいつにこんなゆーふぉーだの宇宙人だの、なんていったら喜んで食いついたり逆に心配したり面倒だろう。だから、これでいいんだよ」
「おばさんには?」
「おばさんもだ。あの人はきっと、なにかあるってのは感づいているだろうけど、喋るまで待つタイプだからな」
昔、小学生の頃だったか、ひすいと〈カミノネゴウ〉とで遊んでいた時、耕したばっかりの畑を荒らしてしまったことがあった。慌てて三人で戻したが、今思えばひどい偽装工作だった。それでもおばさん、小野寺弓枝は、彼らが謝りに来るまで黙っていた。
「じゃあ、いつか圭介は言うの?」
「……」
圭介は黙り込んだ。
「それは」
「ねえ、圭介は、レイチェルさんから聞いたこと、全部僕に話してくれた?」
「ああ。そうだ」
圭介は間髪入れずにそういった。
「ならいいんだよ。だけど、なんかあるなら言ってほしいな。だってさ、僕たちは」
「悪い、腹減ったから飯食ってくる。あとでまた来るよ」
圭介はそういって窓を閉め、カーテンを引いた。が、こっそりとカーテンの隙間から〈カミノネゴウ〉を伺い、彼が自分の「家」に入ったことを確かめると、外の玄関に走った。そこには、小野寺家から持ってきたビールケースがある。もちろん中にはビール瓶が並んでいる。それら、空のビール瓶をどっさりと持って、圭介は家の中へ戻っていく。
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