第12話 彼らも僕らも宇宙人

 空を見上げると、きらきら輝く星々。はてさて、この宇宙に、地球のような星はいくつあるのだろうか。もし、この輝く星の数だけ文明があるのなら、それはもう恐ろしい数になるだろう。もちろんそんなことはない。宇宙連合によると、地球のような『発展途上星』は十三だという。そして、彼らの基準で言う『先進星』は二十一らしい。一定の技術レベルを持ち、宇宙経済についていけるだけの結束をもった星のことを彼らは先進星と呼ぶ。


「多分、遠い遠い未来の話なんだと思う」


『我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから』


つまりは、地球はまだその域に達していない。ゆえに地球は発展途上星として、宇宙経済から原則外され、逆に搾取の対象とならぬよう、宇宙連合から保護されているという。


「まあ、保護されているって言うよりも、関わりたくないっていうのが本音みたいなんだけどね」


「関わりたくない?」


 昔、惑星間で貿易をした時、その星から持ち込まれた菌類によって一つの星が滅びかけたのだという。そうでなくても、たった一日でウィルスに感染し死んだ旅行者もいたそう。見えないものでなくてもいい。たった一匹の生物が輸入品に紛れていただけでその星の生態系が次の日から全く別のものになってしまう。どんな菌類がいるのかわからない発展途上星との貿易は多大なるリスクを背負っているのだ。次いで、いくら文明が進もうと、惑星間の移動は大きなコストも掛かる。必然的に相手の文明のレベルが上ってくれないと『貿易』は成り立たないのだ。


「植民地にしようものなら現地の菌類が怖いから、やっぱりリスクに見合わないの、発展途上星とのやりとりは」


「じゃあなんだったんだってんだ、この前ふらふら飛んできたあの訳のわからんUFOは」


「それでも、地方の星の特産品には価値がある。それこそ、宇宙連合に保護されているから発展途上星の認定を受けた星の物産の入手難易度は何倍にも跳ね上がる。だから、宇宙人の密輸業者は必ず現れる。それらの品は、持っているだけでステータス足りうる」


だってそこに価値があるから。


「それで、わたしは地球側から宇宙人を監査する監査機構の一員なの」


 へえ。


「それで……」


「なるほどなあ。まあいいや。随分と時間かけちまった。じゃあな」


 南方圭介。小野寺家の隣に住む高校生。謎の人型ロボット〈カミノネゴウ〉のパイロット。


「もしかして、信じて、ない?」


 レイチェル・ミズシン。小野寺家にやってきた留学生。『諸事情』により宇宙人の密輸に関わり、宇宙人の出入りを監査する『機構』に所属する少女。


「違う。いい加減ひすいが心配する」


 小野寺ひすい。レイチェルのホストファミリーの高校生。特にこれといって特記することなし。


「それはどうでもいい。わたしは正直、留学とかそういうの、どうでもいいの。そんなことより、あいつらを、宇宙人をこの星からたたき出すことが大事で」


「ああ。それは確かに大事かもな。まだ、そいつらはいるのか?」


「ええ。地球への渡航費、渡した賄賂、その他雑費を考慮すると、あいつらは大赤字よ。あくまでビジネスに来ているんだから、成果を挙げずに引き返すなんてありえない」


「いつ頃また出てくる」


「もし、二日の間何もないなら、明日には出てくると思う」


「そうか。それだけ聞けたらいい」


 でも。


「なんでわたし、農作業やってるの?」


 太陽は正午を過ぎ、二時か三時か。燦々と照る太陽のもと、小野寺家より借りた作業着、小野寺家から借りた長靴、小野寺家から借りた移植ごてを片手にレイチェル・ミズシンは畑のど真ん中にいた。


「ここの畑の持ち主は腰を痛めててな。ひとまず今年いっぱいは休耕地にすることにしたそうだ。とはいえずっと放置しとくのもなんだからな。たまに来て雑草抜きぐらいはすることにしてる」


「そういう意味じゃなくて」


「あいつらが入ってこれないからな」


 仕事は草取り。それを眺める外野は二つ。小野寺ひすいと、ロボット〈カミノネゴウ〉。


「〈カミノネゴウ〉は下手に畑に入ると足を取られて動けなくなるからな」


「いいじゃない。あのゴウちゃんならあの三脚式円盤に対抗できる。そうでしょ?」


「違う。そういう問題じゃない」


 圭介は言い放つ。レイチェルは首を傾げた。


「申し訳ないんだけど、あの円盤に対抗出来るだけの力はわたしにはないの。だからあなたとゴウちゃんとやらには協力して……」


「いらない。あんな円盤一つ、おれだけで十分だ」


「まさか」


 だが、少年の目にふざけた様子はない。


「日本人って本当に自分のことしか考えてないのね」


「かもな」


 圭介はそう言うと、


「おい、ゴウは先に帰ってろ! ひすい、レイチェルさんを連れてってやってくれ」


 と声をかける。


「でも、違うのもいるかもしれない。なんでもかんでも一括りにするのはやめとけ」


「別に、そういう訳じゃ」


 ひとまず草抜きはこんなもんだな、圭介はそう言って背を向ける。


「あと、さっきの話、誰にもするなよ。みんな自分のことしか考えてないからな」

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