第11話 こうしてわたしはおうちにかえらないない
ちょうど正午。レイチェル・ミズシンは帰宅した。否、帰宅なのだろうか。疑念がレイチェル・ミズシンに浮かぶ。車に揺られること二十分。彼女は再び小野寺家の敷居をまたぐことになる。医師の検診もすぐに終わり、問題無いと告げられた。できればもう一日いるように、と言われたがたまったものではない。彼女の様子を察してか、小野寺ひすいを始めとし、小野寺弓枝もレイチェルの意見を推してくれた。
「なんだか、大変なスタートになっちゃったね」
はい。
「それで……」
「それで、これがレイチェルちゃんのお家です! って一回もう来てるんだっけ」
そうよ、と小野寺弓枝がいう。
「まあ、なんかいろいろあったみたいだけど、お医者様も大丈夫って言ってくれたし、大丈夫でしょう。そうよね、レイチェルちゃん」
ええ、まあ。
「その……」
「じゃあさ、とりあえず、タオルとか持ったら温泉行こうよ!」
ひすいが目を輝かせて言う。
「温泉?」
「疲れた時は温泉だし、元気になるには温泉だよ。あと、明日から学校なんだから温泉でしょ。わたし飲んじゃうくらい好きだから!」
そういってレイチェルの手を引き家の中へ入っていく小野寺ひすい。
「あの……」
言わなくちゃいけないことがある。突然家を出て、勝手に怪我をして、そして、病院でずっと寝ていたわたしは。
「あんたは温泉が好きなだけでしょ。でも、今日は仕方ないね。レイチェルちゃん、温泉行くから準備しましょ」
「あの」
言葉が続かない。そういえば、わたしはこの人のことをなんと呼べばいいのだろう。
「たっだいまー。レイチェルちゃんの部屋はお二階だね。わたしの部屋の隣なんだよ。昔はおねえちゃんの部屋だったんだけどね。ってあれ、自分の部屋も知ってる?」
小野寺ひすいはぐいとレイチェルの手を引いて休めない。なんでこの人達は訊かないのだろう。
「あの」
なぜ突然家を出たのか、なぜ勝手に怪我をしたのか。
「荷物はね、あにさんが全部運んでくれたんだよ。ほら、あのキャリーケース」
対CM装置の詰まったキャリーケースが部屋の中央にでんと置かれていた。
「なんで」
まるで嫌がらせだった。見なかったふりでもしようというのか。疎外感がレイチェルの骨に染み入った。
「それじゃあ、とりあえず荷物置いて外に出よう」
レイチェルは恐恐と、小野寺家から借りたらしい寝間着の入った鞄を置く。
「よし、下に降りて車に乗ろう、ね?」
そういって小野寺ひすいは振り返る。と、そこの少女は壁を見た。
「あれ、あにさん?」
南方圭介。車の中で聞かされた名前。ゴウちゃんの主。そしておそらく、あの牧場で戦っていた男。
「ちょっとこいつに話がある」
レイチェルはつばを飲み込んだ。
「でもあにさん、わたし達温泉」
「いいの」
レイチェルは言い放った。ひすいが少し怯えたような表情を見せた。
「いいの。わたしも彼には話がある。ごめんなさい、温泉はまた今度ね」
笑みが溢れるのが自分でもわかる。やっと話せる相手が出てきた。それも、向うから。高揚感が抑えきれない。
「あいつらは、宇宙人よ」
レイチェル・ミズシンは言い放った。
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