第9話 あれから
病院から出、あたりをぐるぐると回ってみる。畑と田んぼ、時々牛が鳴く田園地帯から車で二十分の病院。その周辺は田園地帯よりは賑やかだ。そして、ここもさしたる変化見られず。いつもどおり人がポツポツとまばらであるのみ。空をみあげても今日は晴天。空港も基地もないこの辺りでは、空をとぶものといえば鳥ぐらいなもの。それさえこのあたりでは見かけないのだ。
「なんだったんだあれ」
南方圭介は考える。〈カミノネゴウ〉に乗って到着した牧場にいたのは、まるで映画か何かから切り取ってきたかのような機械だった。六階建てか七階建ての建物ほどある全長の、まるでクラゲのような機械。その頭と思しきところはまるでUFOの様な円盤状で、その下にも円盤のようなものがくっついており、そこからだらりと長い足が三本、しかして、彼が見た時は随分力強く地面を踏みしめ、牧場を土を抉りながら歩いていたっけ。
あれから二日。学校にも普通に通っていたが、ふと気づけば空を眺めるようになっていた。あの時の円盤は、結局空へ逃げていったのだ。その後のことはわからない。そのままUFOらしく宇宙へ消えていってくれていたらいい。
一方で気になるのは、レイチェル・ミズシンだった。なんで牧場にいたのか。なんでキャリーケースを牧場に持ち込んでいたのか。なにか事情を知っているのではないか。そんな疑念がついてまわっていた。ポケットから妙な形の握り手のついたスイッチを取り出す。見慣れない道具だ。スイッチ部分にはわざわざカバーが付いている辺り、おそらく押せば厄介になること請け合いなのだろう。これはおそらく、レイチェルのものだ。問いたださなくてはならないことは多い。
そんなことを考えている圭介に反して、あれは随分とお気軽だった。
「よかったあ。ちゃんと目がさめたんだね」
心底ほっとしたように〈カミノネゴウ〉は声を上げる。
「そうだな。これでひとまず安心だろう」
病院から結局、小野寺ひすいの父吉蔵に車で送ってもらって帰宅。南方家縁側。家自体は普通の二階建てだが、それがもう一棟あるのが南方家のすごいところ。言わずもがな、〈カミノネゴウ〉のために用意された建物である。圭介は家の縁側に座り、〈カミノネゴウ〉は自分の家からひょっこり頭だけだして会話している。
「それにしても、あれはなんだったんだろうね」
〈カミノネゴウ〉は首を傾げる。
「さあな。でもあれからあのUFOモドキはでてないんだろ?」
「うん。圭介が学校行ってる間ずっと探してたんだけど全然見つからないや」
二日前、謎の停電中にこの片田舎ではとんでもないことが起きていた。牧場を足の生えた円盤が襲い、何故かその場にいた留学生レイチェル・ミズシンが巻き込まれてしまった。
『僕が浅田くんの牧場の牛の世話をしていたら突然停電になってさ、どうしたんだろうと思って辺りを見ていたらレイチェルさんと円盤が追いかけっこしてて。何とかしようと思ったんだけど、僕だけじゃ』
そこで南方圭介を連れてくると約束し、大慌てで戻ったのだそう。
「宇宙にでもとっとと帰ってくれてりゃいいんだけどなあ」
「でも、せっかく来てくれたんだから観光ぐらいしていってくれてもいいのにね」
「バカ言え、その度にあんな風に町をボコボコにされたらたまったもんじゃねえ」
南方圭介は吐き捨てるように言った。〈カミノネゴウ〉は、やっぱりそうかな、とぼそっという。
「レイチェルさんならなにか知ってるかな」
「さあな。今はひすいがつきっきりだからな。出てきたら訊いてみるつもりだ」
そう、と〈カミノネゴウ〉は言った。
「そういや、一応聞いといてやるけど浅田はどうしてる」
「浅田くんは、お父さんに怒られてずっと牧場につきっきりだよ。僕もあれはUFOのしわざだって言ったんだけど、ならばなおさら牧場の息子のくせに、って言われて」
昨日なんてずっと怒られてたんじゃないかな、一日中。
「だから学校来てねえのか」
今日も。
「僕も牧場の様子見たかったんだけど追い出されちゃって。だからよくわからない」
「まあ、あんな奴のこと知ったこったねえや。それに二日も動いてないんだ。あれが宇宙人だとしても、もう帰ってるだろ。だからお前は気にするな」
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