第23話

「――てことで散策がてらに終日吹雪峠をさぁくさくと取材して,とっとと家に帰ろうぜ」

 個人スペースのテント内で大声をあげていた――

 ボランティアスタッフが何かあったのかと様子を見にくる。誠皇晋が大丈夫だと笑顔で返すと,スタッフも表情を緩めて去っていく。

 足音が遠ざかるのを待ち,誠皇晋が目色で問う――どうした?

「だ,だって――駄目だよ取材なんて」

「どうして?」

「だって危ないし」

「危ない?」

「だって――だって危ないよ――ほら,あれさ,そうなんだ。ずっと吹雪なんだ。また滑りおちて大怪我するよ」

「もちろんおまえは来なくていいよ。旅館かどっかで待っててくれ。形だけの取材だからすぐに終わる。事実無根だって書くにしても画像ぐらいはアップしねぇと――」

「駄目だって!」

 誠皇晋が人の肩に触れて覗きこむように真顔で見つめる。

 …… バレた。噓が完全に露呈した。これは 虚偽を看破した際の 誠皇晋の所作なのだ。

「分かった」そう1度頷く。「受けた依頼はキャンセルする」

「セイノシン?」

「さっさとずらかろうぜ」身を起こさせようと介助する。

「――セイノシン,あのね,時間の無駄だと思うから。どうせ,いないんだしスノーマンなんて」

「いたんだな。おまえは会ったんだ。だったら,この仕事めっちゃヤバいじゃん。あそこのサイトはいっつも,とんでもねぇ話を回すな。また危ねぇ目に遭うとこだったぜ」人を立ちあがらせて身支度させる。「もういい――帰ろう,俺たちのうちに」

 訳もなく大きな安堵が舞いおりた。僕たちは戻れるのだ。以前のままの僕たち2人に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スノーマンは終日吹雪峠に夜伽す――惑乱の人③―― せとかぜ染鞠 @55216rh32275

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ