第14話

 ただ、それは褒め言葉なのだろうか、とも思っている。

 貶された、舐められた感も抱く。

 とはいえ、気にしすぎ、といえば、気にしすぎだとも、思う。

 人は裏の顔を持っているのは当たり前で、社会生活を波風立てずに泳いで行くには、本音ばかりでの付き合いはダメだということも、29年間この社会の中で生きてきているので、とうに経験で学んでいた。

 ただ、それがタクヤには当たり前のようにできないようだった。

 周りの皆は息をするように当たり前に表裏の顔を上手く使い分けていることに、なんとなく嫌悪感があった。けれども、社会生活を波風立てずに渡っていくためには、必要不可欠であり当然のことだと理解し、嫌悪感を抱く自身はどれだけ立派な人物なのだろうと、自分自身への嫌悪感も募った。

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