第14話 ⑤

 リリアナがロールカツをひと口大に切ると、立ち上る湯気とともに大地の恵みの象徴のようなタケノコとキノコの豊かな香りがふわりと広がった。

 取り皿にのせてハリスに渡す。

 

 薄切り肉に巻かれたタケノコとキノコはふっくらツヤツヤに輝いていて、匂いだけでなくその見た目にも食欲をそそられる。

 テオは待ちきれない様子で大皿に盛ったロールカツの山に手を伸ばし、フォークを突き立てた。

「俺、このままでいいから」

 言うや否や、がぶりとかじりつく。


 口をはふはふ言わせながらあっという間に1本目を平らげたテオが、2本目に手を伸ばす。

 その様子を見て満足げに笑ったリリアナがハリスに評価を求めた。

「先生、ロールカツどうかしら?」

「味、食感、揚げ具合、全て上出来だ」

 一切れ食べ終えたハリスが口元を綻ばせる。

 

「やった!」

 リリアナは小さくこぶしを握る。

 カリュドールの肉をハリスが理想的な状態に捌いてくれたおかげであることは重々承知しているが、一流調理士であるハリスに料理の出来栄えを褒められるのは素直に嬉しい。


「さあ、わたしも食べるわよ~~っ!」

 もちろんリリアナも一口大に切ったりせず、そのままいく派だ。


 テオ同様、豪快にかぶりつくと衣のサクっとした歯触りの次にジューシーな肉の旨味が口の中にあふれる。

 さらにはキノコとタケノコが舌の上に躍り出た。

 こりこりのキノコとホクホクのタケノコは食感が楽しめるだけでなく、肉にしっかり巻かれていることで濃厚な香りと味を逃がすことなくとどめている。

 採れたてのタケノコにはえぐみがなく、カリュドールの脂の甘みとも相性バッチリだ。

 最後に鼻から抜けるハーブの香りとほんの少しの獣臭さが逆にクセになり、すぐにもう1本食べたくなる。


「てめえ、食いすぎだろ!」

「それはこっちのセリフよ!」

「にゃあ! にゃあ!」

 リリアナとテオの痴話喧嘩にコハクまで参戦し、にぎやかな食事となった。

 

 カリュドールの肉はどの部位も鉄分を多く含んでいる。

 ガーデンの外で市販薬の原料として使う場合は、貧血改善の薬効がある。また、良質の脂分が美肌効果をもたらすとされ、上流階級の女性の間では人気のサプリメントらしい。

 新鮮な肉をガーデン料理として食べる場合はその効果がさらに高まり、造血効果と血の巡りが良くなるため頭も体も活性化する。

 特に若いほど効果がてきめんで、コハクは毛がつやっつやになり、リリアナとテオの肌艶も良くなった。


 テオが草原エリアで大怪我を負ったのが2日前のこと。

 魔牛のステーキで怪我と体力は回復したものの、失った血はそう簡単には戻らないため顔色が少々悪かった。

 初心者講習会で使用する食材調達が大きな目的ではあったが、ハリスにはそれ以外にテオの貧血改善という目的もあってカリュドールに狙いを定めたのだろうと納得したリリアナだった。


 そんなことに気づいていないであろうテオは、みなぎるような活力を持て余している様子だ。

「俺、もっと狩りしてきてもいいか?」

 片付けを終えて帰ろうとした時、上気した顔でまだ暴れたりないと言い出したのだ。


「待て、いまのテオにぴったりの場所がある」

 ハリスにそう言われて、どんな場所のどんな魔物だろうかとワクワクした顔で向かった先で、テオはくわを渡されていた。


「なんだよ、これ」

 呆気に取られるテオに向かって、リリアナがにっこり笑う。

 

「鍬よ。知らないの?」

「知ってるわ! だからどういうことだって聞いてんだよ!」

 

 困惑しながら叫ぶテオの目の前には、畑が広がっていた。


 

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