第15話 ⑥
「畑耕すとか聞いてねえし!」
不満げに叫ぶテオを無視してハリスは大きな革袋から中身を取り出して土に撒いていく。
そこには細かく切り刻まれたカリュドールの廃棄物のほかに、料理に使ったタケノコの皮、キノコの石づき、ハーブの茎や根、そして腐葉土も含まれている。
「力があり余っているんだろ。土によく混ぜて畝を作ってくれ。また美味いもん食わしてやるから」
2袋分を撒き終えるとハリスは腰をさすりながらニッと笑った。
「そうよ。どうせ食べるならうんと美味しいほうがいいでしょ? テオが頑張っていい土を作ってくれたら、すごく美味しい食材が育つと思うわよ」
リリアナが小さな鍬を振るうが、農作業には不慣れなため土を浅く掘ることしかできない。
そんなリリアナを見て、テオはフンっと鼻を鳴らす。
「なんだよ、そのへっぴり腰は! 俺に任せろ!」
リリアナが畑から離れると、テオが鍬を振り上げた。
「おりゃあぁぁぁっ!」
やけくそ気味に雄たけびをあげながら、ものすごい勢いで土を耕し始める。
「さすが普段、あの重たい斧を振り回してるだけあるわね」
「にゃあ」
畑の畝づくりはテオに任せることになった。
目の前に広がる畑の奥には普通の野菜が植わっている。
ここはガーデンの入り口にある
冒険者だけでなく娯楽目的でガーデンにやって来る貴族や一般市民にもガーデン料理を提供している飲食施設「リストランテ・ガーデン」はガーデン内に複数店舗ある。
「コハクはテオがサボらないか見張っててね」
「にゃ!」
リリアナとハリスは、仕込みを終えたカリュドールのパンチェッタを手にリストランテ・ガーデンへと向かった。
ガーデンの食材は外へ持ち出すと急激に劣化が進んでしまう。
パンチェッタは時間をかけてゆっくり熟成させなければならないため、それでは困るのだ。そこで、ガーデンの中にあるこの店で熟成を手伝ってもらう手筈を調えていた。
厨房はディナーの仕込み作業をしているところだった。
「ハリス先生! 最近仲間が増えてにぎやかっスね~!」
背の高い調理士が笑顔で出迎えてくれる。店で働く調理士たちの中には、ハリスのかつての弟子も少なくない。
「若いふたりが元気すぎてこっちはヘトヘトだ」
ハリスは苦笑しながらパンチェッタの塊を台の上に並べ、さらにカリュドールのヒレ肉、ランプ、テールをマジックポーチから取り出して並べた。
「これは熟成を手伝ってもらうお礼だ。料理としてお客さんに提供してくれても、まかないで食べてくれてもいい。好きなように使ってくれ」
ディナーに向けて仕込みをしていた調理士たち全員の手が止まり、わあっという歓声があがる。
「やっべ、すげえ綺麗な肉」
「店長! 今日のまかない、ヒレカツにしましょうっ!」
リリアナは活気づいた厨房を興味津々で眺めた。
まかないでカリュドールの肉を食べたら、今夜の厨房の士気は爆上がりに違いない。
リリアナはその様子を想像して笑いながら、じゃあよろしくと挨拶をしてハリスとともに店を出たのだった。
(2皿目・完食)
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