第8話 ⑦

「なんだよ、おまえ人間だったのかよ。てっきりヒト型の魔物だと思ってた」

 リリアナが自己紹介のために自分の冒険者カードを見せると、テオは驚きと安堵を隠さなかった。

 

「失礼ね! 魔物ってなによ」

「失礼とかじゃなくて大食いのレベルがおかしいだろ。俺、おまえに食べられる覚悟までしたんだからな」


 リリアナがぶすくれる。

「嫌よ、不味まずそうだもの。食べてくださいって懇願されたって御免だわ」

「懇願なんかするか!」


 リリアナとテオのやり取りに苦笑しながらハリスが魔牛のステーキを頬張っている。


 ハリスがフライパンの前から離れると、今度はリリアナがそこに陣取った。

 魔法で水を出し肉を焼いたフライパンに注ぐとスプーンでかき混ぜる。

 フライパンに残っている肉やハーブのくずをこそげ取るようにしてよく混ぜ合わせ、さらに追加として草原エリアで採取したハーブをナイフで手際よく刻んで入れる。

 爽やかな香りと甘みがあるだけでなく、消化促進・胸やけ改善・解毒効果の高いハーブだ。


 魔物の肉が体質に合わず、腹痛を起こしたり蕁麻疹が出たりすることが稀にある。

 先ほどテオが魔牛のステーキを食べるのが初めてだと言っていたため、リリアナはこのハーブを使うことにした。

 最後に塩・こしょうで味を調えてカップに注ぎ、一口味見する。

 

 ハリスが肉の付け合わせに使ったハーブが、スパイシーな味だったりほのかに酸味のある味だったりとバリエーションが豊富だったため、肉の旨味と合わさって十分味わい深いスープになっている。

 熱いスープが喉を通って胃に染み渡る感覚が心地いい。

 

 リリアナは、納得のいく味に仕上がったスープに満足して大きく頷いた。

 カップに注いでテオとハリスにもスープを渡すとレオリージャの前には水を置き、火を消して代わりにランタンを灯した。

 

 テオは尚も、

「だいたい俺はこんなちっちぇえヤツに負けたわけじゃないからな!」

とぶつくさ言っていたが、スープを一口飲むと静かになった。

 

「湯気の立つスープ飲んだの、いつ以来だっけ」

 なにかを懐かしむように目を瞑っていたテオが、ゆっくり瞼を開く。

 その茶褐色の目には、ランタンのやわらかい灯りが映っている。

 

美味うまい」

 呟くようにそう言ったテオを見て、リリアナは嬉しそうにうふふっと笑い、ハリスも満足げに口元を綻ばせたのだった。


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