第7話 ⑥

 レオリージャは白毛のライオン型の魔物で、成体は大人の人間が跨って乗れるほどの大きさだが幼体は猫のような見た目をしている。

 そんな可愛らしいレオリージャが、にゃおにゃお鳴きながら気を失っている若い男にネコパンチを浴びせていた。


 大層な武器を持って体つきも筋肉の塊みたいなのに、まさかこんな可愛い子にボロ負けしたの……?

 リリアナは笑いをこらえながらレオリージャの子を抱き上げた。

 

「もうそれぐらいにしてあげたら?」

「にゃっ?」

 

 つぶらな瞳でリリアナを見上げたレオリージャは、鼻をヒクヒクさせてリリアナの匂いを嗅ぎ始める。


「血の匂いがするのかもな。腹減ってるなら、おまえも魔牛の肉食うか? そいつよりも美味いぞ」

「にゃぁ♡」

 レオリージャはハリスの誘いを即答で了承した。


 レオリージャは知能レベルと順応力が高いことで知られている。

 人間の言葉をある程度理解しているようだし、敵意よりも食い気を優先するしたたかさも持ち合わせている。もちろんすぐに人に懐いてしまったのは、幼体だからという理由も大きいだろう。


 あまり草の生えていない調理しやすそうな場所を見つけると、リリアナは「セーフティカード」を取り出した。

 これもまた魔道具のひとつだ。カードを置いた場所を中心に結界が展開され、使用者が招き入れた者以外は入れない仕組みになっている。


 ガーデンは、外と同じ時間の刻み方で朝と夜を規則的に繰り返している。

 夜のとばりが下りようとしている時間帯に草原で肉を焼けば、夜行性で肉食の魔物たちがウヨウヨやって来る。それではくつろぎながら食事をするどころではなくなるため、ここで役立つのがセーフティカードというわけだ。

 難点はこのカードが半永久的に使えるわけではなく、1回の効果持続時間が2時間で、3回使い切りということだろうか。

 

 こういった魔道具を上手く利用することが、ガーデンでの冒険を快適に進める秘訣のひとつでもある。

 魔道具はガーデンの外の街にある「レオナルド魔道具商会」で販売されている。

 その名の通り、この店のオーナー兼魔道具の制作者はガーデンの創始者でもある伝説の魔法使いレオナルド・ジュリアーニだ。

 魔道具商会で売られている魔道具は、ガーデンでのみ効果を発揮する。

 もしもそれをガーデンの外で無理に使おうとしたり、ガーデン内外に関わらず悪用しようとすればその者に呪いがふりかかるという取扱いに注意の必要な代物でもある。

 魔道具によって値段はピンキリで、中には命を落とした冒険者を蘇生させる魔道具もあるという噂だが、真相は定かでない。


 倒れていた若い男が首から下げている冒険者カードを確認したリリアナは目を丸くした。「テオ」という名前に聞き覚えがある。

 ずいぶんと評判の悪い冒険者ではなかったか。

 

 ハリスがテオを担いで運びリリアナが用意したシートの上に寝かせると、その横に斧を置いた。

 次にハリスは魔導コンロにフライパンをセットして魔牛の肉を焼き始め、レオリージャの子供には生肉を小さく切って与えた。

 

 リリアナはテオがこの幼いレオリージャに負けたのだと思っているが、ハリスはそれがどうも腑に落ちないらしい。

「ガーデン管理ギルドの受付はベテラン揃いだから、幼体のレオリージャに負けるような初心者を単身でこのエリアに転送させるような無謀なことはしないはずだがな」

 と、首をひねっている。

 手違いでもあったんだろうか。リリアナにはよくわからない。

 

 ただ、外見の武骨さとは裏腹に面倒見のいいハリスのことだから、テオが目を覚ましたら甲斐甲斐しく肉を食べさせるのは間違いないだろう。

 

「まずは自分の腹ごしらえよっ!」

 

 リリアナは、張り切ってハリスが焼く絶品の魔牛ステーキを食べ続けたのだった。

 

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