第42話 一晩?
俺達が
「何時までいられるの?」
「えっと……八時くらいまでです」
「あと一時間か……」
正直言うと、泊まるのかも? なんて思っていたけど、そんなわけはなかった。あいにく俺の部屋は誰かが来ることを想定していないので、できることは少ない。
「月花さんに楽しんでもらいたいけど、特に気の利いたものはないんだ」
「いえっ、私はこうしてのんびりと過ごすほうが好きなので、気にしないでください。……あっ! 私がおすすめした本、読んでくれてるんですね」
俺が月花さんと出会ったばかりの頃、面白い本を選ぶことに付き合ってもらったことがある。その時に月花さんおすすめの本を教えてもらっていたんだ。
「月花さんが選んだ本、どれも面白いね。次は何を買おうかなって考えてるんだ」
「そんなにたくさん買って、お金は大丈夫なんですか?」
「本を買う余裕くらいはあるよ。一度にそんな何冊もは買えないけど」
「あのっ、それなら……お貸ししましょうか?」
「え、いいの? それは助かるよ」
「それなら今度持って来ますね」
それからは本の話を続け、気がつけば八時になっていた。俺は月花さんを家まで送り、再び一人きりになった部屋の中で考える。
夜になっても俺の家にいてくれるなんて、信用されていると思う。俺には恋愛経験が無いけど、今の関係から前に進むなら、俺から行動を起こさないと。
(しまったな、次はいつ会えるか聞いておくんだった)
次の日、夏休み二日目。今日も予定は無い。俺にだってこの世界での友達はできた。でも夏休みに会うかと言われれば、そこまでではない。
俺が異世界に転生したことによるデメリット。俺は最近になってそれに気がついた。この世界にはWeb小説という文化が無いのだ。これはイタい。プロが書いた小説を買って読むことになる。うんまあ、普通のことだな。
俺には幸いにもまだ読んでない本があるから、むしろ時間が足りないくらい。そして気がつけば午後五時になっていた。
(コンビニに弁当でも買いに行くかー)
俺が外に出ようとすると、インターホンが鳴った。俺がドアを開けるとそこには、またもや俺と一緒に買った別のスカートを着た月花さんがいた。
「ご飯……作りに来ました」
「えっ? 俺、知らなかったんだけど」
「お母さんがサプライズだから黙って行きなさいって……」
「それはさすがに連絡したほうがいいと思うけど……。それに俺がいなかったら、どうするつもりだったの?」
「帰って来るまで待ちます」
「いやいや、そういうわけにはいかないって。とにかく中に入って」
昨日に引き続き、夜を月花さんと過ごすことに。別に昼間に来てくれてもいいのに。
「これ、昨日言ってた私おすすめの本です。重たいのでちょっとしか持って来られないから、また持って来ますね!」
月花さんはそう言ってから、キッチンへと向かい食事の準備を始めた。
そしてテーブルに味噌汁や焼き魚などが並べられる。当然のように美味かったので、きちんと感想を伝えた。それを聞いた月花さんは本当に嬉しそうな表情をしてくれた。
そして俺達は今日も特に何をするでもなく、ゆっくりとした時間を過ごした。月花さんはつまらないと思ってないかな? と不安になるけど、月花さんもこういった時間が大好きなんだという。
夏休み三日目。今日は昼頃に月花さんから連絡があった。その内容は、今日も夕食を作りに来てくれるというもの。もしかして毎日来るつもりなのでは? こういうの何ていうんだっけ? 通い妻?
午後五時になり、インターホンが鳴る。そういえば俺の家を知ってるの、月花さんだけだ。
「今日はお肉でーす!」
もはや当たり前のようにキッチンへと向かった月花さんが、楽しそうにパックに入った肉を見せてくる。俺も合わせて「おぉー!」とリアクションをとった。なんだか楽しい。
出会った頃の月花さんからは想像できないほどに、元気になったように思える。少しは俺も役に立てたのかなと思うと、ジーンとくるものがある。
食事を済ませると、いつものようにまったりタイムがやってくるはずだった。でも今日は少しだけ違っていた。
「私、今日はもうちょっと長くここにいられます」
月花さんがそれをどういう意味で言ったのかは分からないけど、俺にはそれが何かを変えるきっかけのように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます