第41話 自分の部屋なのに落ち着かない

 夏休み。月花つきはなさんが俺の家まで食事を作りに来てくれることになっている。月花さんのお母さんの策略によるところが大きいけど。


 では夏休みのいつなのかというと、初日だ。お母さんは「夏休み中毎日通ってもいいのよー?」と言ってくれたけど、それはさすがに俺から断った。


 俺が住むのはとあるマンションの一室。元の世界でも同じような暮らしをしていた。ただこの世界での俺の保護者は女神様で、生活費も仕送りのような感じで貰っているから、贅沢な暮らしをしているわけじゃない。


 夕方。インターホンが鳴り俺がドアを開けると、そこに月花さんが立っていた。


 月花さんの服装は薄いピンクのTシャツに白いミニスカート。あの合コンの後で一緒に買いに行ったものだ。そしてバッグには、俺がプレゼントした三日月型のキーホルダーが付けられている。


 きっと俺を喜ばせようとしてくれているのだろう。こういったところも含めて、本当に可愛いらしい女の子だなと思う。


「来ちゃいました……」


「あ、うん。お母さんから聞いてるよ」


 どうしよう。超可愛い女の子が俺の家に! えっと確か女の子が男の家に来るということは、つまりそういうことなんだっけ? そういうことってなんだ? 見当はつくけど、まさか俺にそんな日が来るとは思っていなかった。


「とりあえず入って」


「あっ……その前にお買い物に行かなくちゃ」


「今から? ここに来る前に買って来たんじゃないの?」


「えっと、その……一緒に行けたらなって」


「だからわざわざ俺を誘いに来てくれたの?」


 月花さんは無言でゆっくりとうなずいた。なんだコレ、めちゃくちゃ嬉しい。


 というわけで俺と月花さんは一緒にスーパーマーケットへ行くことに。女の子と買い物なんて、もちろん初めてのことだ。


「私、男の子とお買い物に来たの初めてです」


「俺もだよ」


 どこかぎこちない会話だけど、改めてそう言われると恥ずかしいものだ。


 肉・野菜・卵など、俺一人ではなかなか買わないような食材を、月花さんが選ぶ。その横顔は真剣そのもの。きっと俺のために少しでも良質なものが買えるように、考えてくれている。


 そして店内を移動している間には、お互いの食べ物に対する好き嫌いの話で盛り上がった。そうか、こうやって少しずつお互いのことを知っていくんだな。



 買い物を終え、再び俺の家へ。部屋の間取りは1Kなので、月花さんはキッチンへ向かう。

 今日の服装の上から、青と白のストライプのエプロンを身につけている。ミニスカートにエプロン。なんだか妙に色気がある。


「俺に何か手伝えることある?」


「出来上がりを楽しみに待っててほしいなっ!」


「喜んで!」


 ということなので、俺はただ床に座って待つ。ローソファーがあるけど、それは月花さんに使ってもらおう。


「お待たせしましたー」


 月花さんがお皿を運んで来た。そこに乗っているものは、オムライスだ。それを俺の前のテーブルに乗せた。


 見た目でも分かる、鮮やかな黄色の卵のふわっと感。全く崩れていない形。きっとマズいわけがない。さすがにケチャップで文字は書かれていない。


「めちゃくちゃ美味そう! あれ? 月花さんの分は?」


「私の分は後から作ります。なのでどうぞ召し上がってください」


「そう? それなら、いただきます」


 俺はスプーンで丁寧にすくって、一口めを堪能する。見た目通りのふわっと食感で、食べやすい大きさにカットされた具がそれを邪魔することなく、全ての食材を楽しむことができる。


「美味い!」


「ふふっ、嬉しいなっ!」


 目の前に座っている月花さんが笑顔を向けてくれる。でも気になることが。


「月花さんも一緒に食べようよ」


「えぇー、もうちょっと冴島さえじまさんが喜ぶ姿を見たいのにー」


「俺としては月花さんと一緒に食べたいな」


「もう、仕方ないですねー」


 月花さんはそう言うと、俺に顔を近づけて目を閉じ、少し口を開けた。


(これはまさか……)


 俺はスプーンの上に一口分を乗せて、そのまま月花さんの口の中へと運んだ。すると月花さんが口を閉じたので、そのままスプーンを引き抜く。俗にいう『あーん』の完成だ。


「美味しいですっ!」


 自分が作った料理に大満足のようだ。


 そして俺はそのスプーンで残りを楽しむ。ここで間接キスだということに気がつき、なんだか恥ずかしくなる。


 結局、完食まで月花さんから見られたままだった。


「作ってよかったぁー! 私も食べよっかなー」


 しばらくして今度は俺が月花さんの食事風景を見守る番だ。


「あのっ……そんなに見られると恥ずかしいです」


「俺はずっと見られてたけど!?」


 夜はまだまだ長い。



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