第33話 二回目

 俺にとって月花つきはなさんはどういう存在なんだろう? 月花さんは俺のことを『特別な人』だと言ってくれた。


 もし俺の友達に恋愛マスターがいて相談をしたら、「さっさと告れ」と言われてしまうかもしれない。でも残念ながら、この世界にも元の世界にも、俺の友達に恋愛マスターはいない。


 でも俺は数々の告白をしてきて、いろんな断られ方を経験している。中には二度と思い出したくないようなものだってある。一度でもそういうことを経験してしまっていると、なかなか次の一歩が踏み出せなくなってしまうんだ。


 だから俺は言葉にはもの凄く気を遣っている。俺が何気なく放った一言が、言われた側にとっては一生消えない傷となって残ってしまうかもしれないから。


 俺はまだ月花さんに告白するという決断ができないでいる。今までの関係を壊したくないから、ずっと言わないでおくということの意味が、今初めて分かった。



 七月になり本格的な夏がやってきた。そろそろ夏休みの予定を立てるべきなんだろうけど、今のところ俺のスケジュールは真っ白だ。


 元の世界では幸いにも何人かの友達がいたから、長い夏休みでも退屈はしなかった。見た目のせいで悪意を向けられることが無かったのは、その友達のおかげでもある。


 クラスの人気者にこそなれなかったものの、男子の多くとはそこそこ話せる間柄だったんだ。だからって全員と学校以外でも会うかというと、そんなことは無い。学校以外でも会うのは本当に気が合う友達だけだ。


 そういえば最近、あの女子生徒に関する話を聞かなくなった。それを甘泉あまいずみ先輩に聞いてみたところ、「あぁ、それね。あれからしばらくして、学校に来なくなったみたいだねー」とのことだった。


 推測でしかないけど、停学にでもなったか自分から来なくなったのか。もしそうだとしても、正直言って自業自得だと思うから同情しようとは思わない。


「あの、冴島さえじまさん?」


 休み時間、俺が教室にある自分の机でウトウトしていると、左隣の席の月花さんが話しかけてきた。


 さすがに三ヶ月も経つと、少なくともクラスの生徒が月花さんに悪意を向けることは無くなっていた。ごく一部を除いては。やっぱりあの三年生の女子生徒との一件が大きかったんだろうなと思う。


「月花さん、どうしたの?」


「えっと、もうすぐですね」


 もうすぐって何がだろう。俺、月花さんと何か約束してたっけ?


「もうすぐって?」


「忘れたんですか? 期末テストですよ」


 そうだった。もうそんな時期になったのか。中間テストが五月だったから、一ヶ月以上経っている。


「そうかー、もうそんな時期なんだな」


「あの、えっと……それでいつにしますか?」


「いつにって、何を?」


「勉強ですよ。今回も一緒にしましょうね」


 時間が経つにつれて月花さんの積極性が増してきている。本当に少しずつだとは思うけど、自信を取り戻せているのかな?


「分かった。それなら明日から図書室で勉強ってことで。忘れてたけど、甘泉先輩って図書委員なんだよね。そういえば甘泉先輩の成績を知らないな。もしかしたら成績優秀で、俺と月花さん二人まとめて勉強を教えてもらえるかもね」


 図書委員だから成績がいいなんてのは、俺の勝手なイメージではあるんだけど。


「ダメですっ……!」


「ダメって、図書室で勉強するのがダメってこと?」


「わっ、私の……」


 月花さんはそう言いかけたけど、言葉の続きは発せられなかった。すると俺のスマホがバイブした。それはメッセージアプリからメッセージが届いたことの通知だった。


『私の部屋で勉強しましょう!』


 月花さんからのメッセージだった。俺はそれを確認すると、月花さんのほうを見た。月花さんもまた、俺のほうを見て俺のリアクションを確認していたようだ。


 月花さんは俺の視線に気がつくと、スッと下を向いてしまった。さすがに教室で部屋に誘うわけにはいかないだろう。


「月花さん」


 俺がそう声をかけると、月花さんは少しだけ顔を上げて、俺のほうを見ている。


「喜んで!」


 俺がそう言うと月花さんは言葉を発さずに、ただ笑顔だけを向けてくれた。


「喜んで!」なんて言った俺だけど、以前に月花さんの部屋に行ってイチャイチャしたことを思い出すと、今更ながら恥ずかしくなってきた俺だった。

 

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