第32話 俺と月花さんの関係
「えっと、やっぱり月花さんって大胆なところがあるよね」
「はぅっ……!」
月花さんからフリーズの合図が発せられた。こうなると月花さんは数秒間動かなくなってしまう。
「月花ちゃん可愛いねぇー!」
甘泉先輩もどんどん月花さんの可愛さに惹かれているみたいだ。そしてフリーズが解けた月花さんが、俺の隣から上目遣いで聞いてくる。
「あの……もしかしてご迷惑だったでしょうか?」
「いやいや! 全っ然そんなことないからね!」
俺は首をブルブルと横に振った。美人可愛い女の子二人からの同時キスを喜ばない男なんて、存在するんだろうか?
月花さんの上目遣いを見て思ったけど、俺の頬にキスをするためには、少し背伸びをしないといけない。それを想像すると、嬉しさと月花さんへの可愛さがさらに跳ね上がった。
「
「甘泉先輩もありがとうございます。嫌じゃなかったですか?」
「もし嫌だったら月花ちゃんの提案に乗らないってー。でも一つだけ冴島くんに言いたいことがあるんだよね」
甘泉先輩も相変わらず俺の隣から離れようとしない。
「何でしょうか?」
「私、男の子にキスしたの初めてなんだー!」
「それを聞いた俺はどうすればいいんでしょうか?」
「言ったことあるよね? 私はまだなんだって。冴島くんならいいかなー、なんてね」
「からかわないで下さいよ。せっかく手当たり次第に男子を誘惑してるって噂がウソなんだとみんなが知ったのに、それじゃ本当になってしまいますよ」
「えー、だって『手当たり次第』じゃないよ? 一人だけにアプローチするのは普通のことだとお姉さんは思うなぁー。それとも冴島くんと月花ちゃんはもう恋人同士なの?」
甘泉先輩にそう言われて、俺はハッとした。俺は月花さんと恋人同士になりたいのだろうか?
俺がこの世界に転生して、最初に言葉を交わしたのが月花さんだ。確かあの時は後ろからぶつかられて、「めちゃくちゃ可愛い」と思ったことをよく覚えている。
その時はまだ、この世界の美的感覚が逆転しているとは思っていなかったんだ。
そして見た目だけで不遇な扱いをされて自信を無くしてる月花さんに、なんとかして自信を取り戻してもらいたいと思ったんだ。
本当にそれだけだったんだ。でもそれがいつしか一緒に帰るようになり、休みの日にショッピングをして、大胆な服を試着した月花さんを見て、今日だって月花さんのために俺は動いた。なぜなら月花さんの笑顔を見たいから。
これはもう好きになっているということかもしれない。今までに俺は何回も女の子に告白をしてきたけど、仲良くなる方法が分からないから、全部が何の前触れもなくいきなりだった。
それこそイケメンならそれで成立するだろうけど、冴えない俺には無理な話だった。
それなら今はどうだろう? 俺は月花さんからキスをしてもらえるくらいの関係を築けていることに、甘泉先輩の言葉によってようやく気がついた。
「えっと、俺と月花さんの関係は……」
俺はそこまで言って言葉に詰まる。恋人ではないことは確かだ。それなら友達? それは間違いないけど、それで済ませてしまうのはどこか抵抗がある。それを口にしてしまうと、それ以上先には進めないような気がするから。
「あのっ……! 冴島さんは私にとって特別な人です!」
俺が答えるより先に、月花さんが甘泉先輩からの質問に答えた。
「特別な人かぁー。恋人だって特別な人といえるよね! そっかそっかぁー、月花ちゃんにとって冴島くんは特別な人かぁー!」
甘泉先輩はどこかワザとらしく明るい口調で話す。するとその直後、俺の左耳に甘泉先輩の唇が近づいてきてこう話した。
「だってさ。早くくっついちゃえ!」
それは俺にしか聞こえていないであろう小声。もしかしたら甘泉先輩は、俺と月花さんが恋人同士になれるように、背中を押すつもりであんな質問をしたのかな?
「じゃあね! 月花ちゃん、帰ろっか」
「はいっ!」
二人は同じ道へと歩いて行った。甘泉先輩が月花さんに話しかけているのが見える。そして月花さんが笑っている。俺はその様子を見て、月花さんに心強い味方ができたと安心した。
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