第25話 ギャルっぽい先輩の話

 俺と甘泉あまいずみ先輩は、校内の屋外にある人通りの少ないベンチに座っている。


「甘泉先輩。月花つきはなさんの噂、なんとかならないでしょうか?」


「うーん、流した本人に聞いてみる?」


「えっ!? 知ってるんですか?」


「念のため言うけど私じゃないよ? それに100パーセントそうだとは限らないから、参考程度ってことで」


「分かりました。それで誰なんでしょうか?」


「私の噂を流した三年生の女子だよ」


「どうしてそうだと思うんですか?」


「私の場合はきっかけがあったからかなぁー。実はさ、私が二年生の時に一度だけ告白されたことがあるんだよね」


 そりゃこんな美人ならね。むしろ一回は少ないのでは? ……って、この世界では冴えない扱いなのか。どっちにしろ凄いな。もちろん俺は告白されたことなんて無い。『もちろん』はつけなくていいか。


「あっ、いま君、私が告白されるわけないって思ったなー?」


 甘泉先輩はそう言って、右手の柔らかな指で俺の右ほほを軽く引っ張る。女の子に頬を引っ張られるって、なかなかできない経験だ。


「思っんよ」


「ホントかなぁー?」


 ようやく俺の頬が自由になると、気になることを聞いてみた。


「女子からの告白ですか。全然おかしなことじゃないと思いますよ」


「やっぱりお仕置きが必要みたいだねー?」


 するとまたもや頬を引っ張られた。なんだか楽しいかも?


「ごめんない」


「分かればよろしい」


 甘泉先輩がパッと手を放して、俺は再び自由を取り戻した。


「だってさっきの話し方だと、そう思うじゃないですかー」


「普通は分かるでしょー? ……あ、必ずしもそうとは限らないのかぁー」


 元の世界の話だけど、今は多様性の時代といわれてるからなぁー。


「それで見事に彼氏ができたわけですね?」


「それがさ、断ったんだよね」


「えっ、どうしてですか?」


「うーん、二年生で有名なイケメンだったから知ってはいたけど、いきなりって感じだったし、それに本当に彼氏とかいらないって思ってたから。もちろん誠心誠意、真剣に返事したよ」


 うーん、それならそのイケメンも怪しくなるけど。まさかフラれるとは思ってなくて、フラれた腹いせに、甘泉先輩の根も葉もない噂を流したことも考えられる。


 よく知らない子にいきなり告白か。なんだか俺のことを言われてるみたいで恥ずかしいな。でも高校生だとそういうこともあると思うんだ。


「そしたらさ、それより前に別のクラスの女子がそのイケメンに告白して、フラれてたらしくて。私はあとになって知ったんだよね。でさ、その女子ってのが素行がよくない人達のリーダー格だったみたいで、私にこう言ってきたんだ。『お前、ブサイクのくせに告白を断るなんて生意気だ』って。それからしばらくしてからかな、私の噂が広まったのは」


 酷い。そういうことなら、その女子も十分に怪しいな。


「だからタイミング的にその女子が怪しいと思った私は、直接聞きに行ったんだよ。そしたらアッサリ認めてさ、『告白を断った罰』だって言ったんだ。意味わかんないよね」


「やめさせようとは思わなかったんですか?」


「さっきも言ったけど、そんな奴らのことで私が思い悩むなんてムダだなって。それなら別の楽しいことを考えたほうがずっといいじゃん。それが諦めだと言う人もいるかもしれないけど、私の行動は私が決めるの」


 俺もこのくらいメンタルが強ければ良かったのにっ!


「俺、甘泉先輩のこと尊敬します! それに俺は甘泉先輩が可愛いと思いますよ」


 紛れもなく本心なんだけど、俺がそう言うと、右側に座る甘泉先輩が照れたように見えた。


「もっ……もう! 先輩をからかうなんて、悪い子なんだから。えいっ!」


 俺はまたしても右頬を優しく引っ張られた。


「ほんとのことれふですよ」


「そっ……そう? だったら私にもお仕置きが必要だね?」


 甘泉先輩はそう言うと、俺のほうに少しだけ頬を近づけて、静かに待っている。


 その様子を見た俺は、左手でそっと甘泉先輩の左頬を引っ張った。もちもちスベスベの温かな感触が伝わってくる。


「後輩にお仕置きされひゃったちゃった……」


 そして俺はそっと手を放した。それから二人とも無言の時間が流れる。


「さっ、さあ! この話はこれで終わり! さっきも言ったけど、私の場合の話だからね!」


「どうもありがとうございました」


 まだ昼休み終了までは時間があるので、甘泉先輩と別れた後、まずは月花さんに話を聞いてみようと、俺は食堂に行くことにした。

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