第23話 ご褒美タイム

 月花つきはなさんが勉強を教えてくれたおかげで、苦手な科目でも高得点を取ることができた。そして教室で報告すると、


「ぎゅっとしてほしい……です」


 と、ご褒美をおねだりされたんだ。多分、抱きしめる……ということだよな? えぇー、いいんですか? むしろそれ俺へのご褒美だと思います。


 さすがに教室でするわけにはいかないので、帰り道のどこかで、ということにしよう。


 実は新学期初日から、毎日のように月花さんと一緒に帰っている。始めは周りの人達からいろんな目で見られた。でも日が経つにつれて少しずつだけど、俺達を気にしない人が増えてきた。


 冴えない女の子がイケメン(扱い)の俺といつも一緒にいる。何もおかしなことじゃないけど、少なからず月花さんが嫉妬の対象になるだろう。だから俺のほうから積極的に月花さんとコミュニケーションをとるようにしている。


 俺だけが変に思われるのは全く気にしない。嫌がる月花さんに、俺が無理に絡んでるように見えてもいい。とにかく月花さんが悪く思われなければそれでいいんだ。


 なのに月花さんと一緒にいたいと思うのは、俺のわがままだろうか?


 校門を出てから別れ道まではほんの数分。それでも積み重ねれば、距離を縮めることだってできるだろう。


 いつもの別れ道に着いた。大通りからは少し離れているため、人通りは少ない。


「もう着いちゃいました……」


 月花さんが残念そうにつぶやいた。俺はまだミッションを達成していない。


「着いちゃった……」


 月花さんがまた呟く。


「着いちゃったよ?」


 ついには上目遣いで聞かれる事態に。これはもう覚悟を決めるしかない。


「えーっと、この度は高得点おめでとう、俺。なので今から月花さんにご褒美をあげます」


「えぇー!? 何かなー?」


 絶対知ってるのに、ワクワクしながら待つ月花さん。


 俺と月花さんは向かい合う。すると月花さんが目を閉じた。まるで寝顔みたいで超可愛い。いや違うのよ、それはキスの時の仕草だと思うんだ。さすがにそれは無理だ。


 俺はじっと待つ月花さんの背中に両手を回し、そっと包み込んだ。やり方合ってるかな? 俺が心配していると、月花さんが俺の胸の中から口を開いた。


「もうー、これじゃ『ぎゅっ』じゃなくて、『ふわっ』って感じです。私がやってみますから、同じようにしてくださいね」


 月花さんはそう言うと、俺の背中と肩に両手を回して、力を込めてきた。ほどよくぎゅっとされている。それはいいんだけど、その……たわわが俺に押し付けられて……。


 でも月花さんからは同じようにしてと頼まれたので、俺も少しだけ両手に力を込めて、抱き寄せるような感じになる。するとさらに柔らかい感触が強くなった。


(柔らかさが格段に違う! もう限界だ! いろいろヤバい)


「ご褒美タイムは終わりました!」


 俺はそう言って、ぎゅむっとしている月花さんを離そうとする。


「ふぅー、満足しました」


 なんか凄くいい表情をしている。俺は楽しむ余裕なんて無かったけどね!


「ではまた明日お会いしましょうー」


 月花さんはとてもいい笑顔で帰って行った。月花さんの明るい表情を見ることが多くなったのは嬉しいけど、あんなに積極的だとは……。



 それから二週間が経った。最近月花さんのよくない噂を聞くことが度々ある。それは月花さんがお気に入りの男子を見つけては、手当たり次第に誘って遊びまくっているというもの。

 見た目が冴えないからこそ、数撃って当てようとしてるということらしい。どこかで聞いたことのあるような話だ。


冴島さえじま、少しいいかしら?」


 昼休みに俺にそう声をかけてきたのは、この世界では超美少女である、美集院びじゅういんさんだ。


「最近月花さんのよくない噂を聞きますが、月花さんは大丈夫かしら?」


「俺も気になってるんだけど、本人にはその話題を出しづらくて。それにしても美集院さん、やっぱり優しいんだね」


「なっ……急に何を言ってますの!?」


「だってさ、噂の真意じゃなくて月花さんの様子を確認してきたじゃないか。それって月花さんを心配してるってことだよね?」


「それは当然でしょう。月花さんはいい子だと私は思っております。それなのに、その……見た目だけで判断されて不遇な扱いを受けるなんて、間違ってますわ。それは月花さんでなくても同じこと」


 やっぱり美集院さん、俺と初対面の印象がめちゃくちゃだっただけで、本当はいい子だと思うんだ。


「私のほうでも月花さんのフォローをしてみますわ」


「ありがとう美集院さん。やっぱり優しいね」


「べっ……、別にこれくらいはっ! 月花さんのためなんですから」


 美集院さんはそう言って自分の席へ戻って行った。


「あ、いたいた。おーい、冴島くーん!」


 今度は教室の入り口から声をかけられた。声の主は、ギャルっぽい図書委員の甘泉あまいずみ先輩だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る