第22話 俺はいろんなことを勉強した
俺は今、超可愛い女の子にひざ枕をしてもらって、さらに頭をなでられている。
「ご褒美……です」
そう言われたけど、なんのご褒美かはよく分からない。
今日はテスト勉強をしに来たんだ。今のところ勉強したことは、『女の子は柔らかい』・『やっぱり月花さんは可愛い』・『ひざ枕最高!』、これくらいか。
(このままじゃ俺、ダメになる)
そろそろ真面目に勉強しようと、俺は頭をなでられながら声をかける。
「月花さん、そろそろ勉強をしようかなー?」
「えっ……!? あっ、ごめんなさい! うっとりしてました……!」
それはどちらかといえば俺のセリフだと思うんだけど。
勉強の体勢をとるため、俺はあぐらで、右側に座る月花さんは正座でローソファーに座り直し、ローテーブルの上に教科書とノートを広げた。正座のほうがひざ枕として心地よさそう。
俺がどうしても覚えられない科目。それは『歴史』だ。ここは異世界だけど、文明は元の世界と変わらない。ただ歴史だけは別。さすがに日本と同じではない。
もし同じならパラレルワールドということも考えられるけど、違った。
転生した時点で高校二年生だったため、この世界の義務教育なんて受けていないんだ。だから、この国の歴史なんて全く分からない。いわば徳川家康を聞いたこともないようなもの。
学校や日々の生活と並行して、高一までの内容を一ヶ月半で覚えるなんて、無理な話だ。
俺は教科書を見ながら、暗記すべきことをノートに書き出して、触覚と視覚としても覚えていく。
「月花さん、こことここの繋がりが分からないんだけど」
俺は疑問に思ったことをすぐに月花さんに聞くことにした。
「どれどれー? 先生に任せなさいっ」
月花さんは少し誇らしげに言うと、少し身を乗り出して、俺の目の前にある教科書を覗き込んできた。
ツヤのある綺麗な髪が俺の右頬をふわっとなで、家に入るまではしていなかった柑橘系の香りも、ふわっと俺を包み込む。
「あ、ここはね、この出来事がきっかけでこういう事態に発展して——」
教科書を指で差しながら、分かりやすく丁寧に説明してくれる月花さん。可愛い顔が俺のすぐ横に。
息がかかりそうな程に近くで見た月花さんの横顔は、いつも不遇な扱いをされているとは思えないほどに美しく、その表情を曇らせてほしくないと改めて思う。
俺は教科書を見ながら、重要な出来事や人物名をノートに書き出していった。多分だけど、分かりやすい勉強法というものは人によって違うだろう。
「えっと、この人物誰だっけ……?」
俺の手が止まる。すると月花さんが「あっ、これはね」と言って、体を俺のほうへ寄せ、ペンを持つ俺の右手に自分の右手を重ねて、ペンを走らせた。
不意に触れた月花さんの手は、温かくてしなやかで柔らかく、女の子の手は柔らかいという、またしても俺の知らないことを教えてくれた。
「あのね月花さん。俺、文字は書けるから口で言ってくれれば分かるよ」
「はぅっ……!」
月花さんからのフリーズの合図だ。そのまましばらく、右手を俺の右手に重ねたまま固まった。そしてバッと手を離すと、慌てて弁解を始めた。
「あっ……あのっ! これはっ!
毎回だけど、最後が一番恥ずかしいセリフになってるから、弁解になってないんだよなあ。
その後も俺は、月花さんのいい匂いと息づかいと温もりと戦いながらも、なんとかテスト範囲の大部分を勉強することができた。
「月花さんありがとう。あとは家で少しずつやれば、なんとかなりそうだよ」
「フフッ、それはよかったです!」
俺が帰り支度を始めると、月花さんが少しだけ真剣な様子で話し始める。
「あの、もしですね……? 冴島さんがいい点数をとれたら、ご褒美をください」
「えっ? 俺がご褒美をもらうなら分かるけど、俺があげるの?」
「だって……冴島さんにはもうあげましたから」
もしかして、ひざ枕で頭をなでられたことを言ってるのかな? いつの間にか俺はご褒美の先取りをしていたらしい。だったらもう意地でもいい点をとるしかないじゃないか。
「分かった。俺がいい点をとったら、月花さんにご褒美をあげよう」
「やったぁ! 頑張ってくださいね」
そしてテストが返却され俺は見事、月花さんにご褒美をあげることになり、教室で月花さんに報告をした。
「おめでとうございますっ!」
「それで月花さんはどんなご褒美が欲しいの?」
「ぎゅっとしてほしい……です」
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