第17話 嬉しそうな月花さん

「冴島さんのせいで買うことになったんですから、また私と会ってくれないとイヤですよ?」


 そう言ってTシャツとミニスカートをキープする月花つきはなさん。ミニスカートを買うことになったのは、俺のせいなんだとか。


「えっと、また次の休みに会うことは電車の中で約束したんだけど、もう忘れてる?」


「ちゃんと覚えてますっ……! むしろ楽しみですっ……! いえっ、私が言いたいのはそうじゃなくて、次だけじゃなくて、ずっと会いたいっていうか……、えっと、ずっとは変かな……。とにかく! もっと会いたいんです!」


 力技で押し切ろうとしたんだろうけど、最後が一番恥ずかしい言葉になってること、気がついてなさそう。


「あのっ! 私、他にも気になる服がありまして。よかったら、感想なんかをいただけると……嬉しいなって」


 またも上目遣いでチラッと俺の顔を見てくる月花さん。普段は長い前髪に阻まれている分、ふと見える表情にはプラス補正がかかっている。こんな可愛い子に上目遣いされて、断れる男がいるんだろうか。それこそ余裕のあるイケメンくらいじゃないかな?


 俺は余裕の無い冴えない男なので、速攻で了解した。


 それから月花さんは店員さんに確認をしてから、いくつか試着を始めた。スカートが中心で、あとはハーフパンツ。トップスも女性らしく可愛いデザインの物が多い。


 そのなかでも俺が気になったのは、肌の露出が多めということだ。でも月花さんが今日着ているワンピースだって、ロング丈で肌の露出が少なくてもよく似合っていて可愛いのに。


 これは俺の推測だけど、肌の露出が多い服を着ていると、周りの人から何か言われてしまうと考えているんじゃないかな。

 だから今まで着てみたくても着ることをためらっていた。こんなところでも月花さんはブレーキをかけているのかもしれない。


 それは本人にしか分からないとしても、今は俺だけに月花さんがいろんな姿を見せてくれている。本当に少しずつだけど、月花さんが前向きになっているのかも? 


「あの、これはどうでしょうか?」


「うん、可愛い」


「えっと、これは似合ってますか?」


「それもよく似合ってて可愛い」


「これはどうでしょう? ちょっと大胆すぎる……でしょうか?」


「すこーしだけ肌見えすぎかな……?」


 俺は本音を言ってるんだけど、褒める度に露出度が上がっていく。ショートパンツに胸元ざっくりトップスを着ていた時は、さすがにとめた。


 試着を終えた月花さんは、Tシャツとミニスカート以外に、露出度は普通で女の子らしい可愛いデザインのトップスと、スカートを一枚ずつ買うことにしたようだ。


「ごめんなさいっ……! 見ていてくれる人がいると思うと楽しくって、ついはしゃいじゃいました」


「大丈夫。楽しそうな月花さんを見てるの、俺好きだから」


「はぅっ……! すっ、すっ、きっ……!」


 すすき? ここで月花さんの語彙力ごいりょくがゼロになる。原因は分かる。自分でもよくそんなセリフが言えたもんだと感心する。


 フリーズしてる月花さんの手を引いてレジへと向かう。女性店員さんが俺のほうをチラッと見てくるけど、それは単にイケメンを見る目か、それとも月花さんを連れているという好奇の目か。


 会計中、レジの横にキーホルダーが数多くあることに、俺も月花さんも気がついた。


「見てください、このキーホルダー三日月の形です。私、月が好きなんですよ。あっ、名前に入ってるからじゃないですよ。昼間は見えることは少ないですけど、夜になると輝いていて、たくさんのものを照らしてくれる。きっと私にも輝ける瞬間があるんだって、勇気をくれるんです」


 その三日月型キーホルダーは少し立体的で、ガラスのように透き通っていながらも、深い青色が夜空を連想させてとてもキレイだ。月花さんはそれをそっと手に取った。それを見た俺はすかさず店員さんに伝える。


「すみません、このキーホルダーも買います」


「えっ!? 私、服を買うだけで精一杯で、そんな余裕は……」


「俺からの今日のお礼だから、気にしないで」


「えっと、その……。はい、ありがとうございますっ! 大切にしますね!」


 俺の気持ちを尊重してくれたのか、月花さんは受け取ってくれた。決して高価じゃないキーホルダーひとつでこんなにも喜んでくれるなんて、本当にあげて良かったなと俺まで嬉しくなった。

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