第16話 大胆な月花さん

 試着が終わり月花つきはなさんが姿を見せた。Tシャツにミニスカートという、さっきまでのロング丈ワンピースとは露出度がまるで違う姿。


 服装による印象とは不思議なもので、白のロング丈ワンピース姿ではきれいな黒髪ロングと白い肌がとても映えて、清楚なお嬢様といった感じだった。ところがTシャツにミニスカート姿になった途端に、活発な印象になる。


 太ももの半分くらいまでの長さの黒のプリーツスカートに、女の子らしいデザインの淡いピンクのTシャツ。淡いピンクということは白にも近い。白といえば月花さんの肌。とてもよく似合う。その結果映える。そして確かにTシャツの上のほうはキツそうだ。


 もはやどんな服装でも映えるしかない、月花さんのプライベートの姿。改めてだけど、俺の初デートの相手がこんなにも美少女だなんて、生きていればいいこともあるもんだ。転生はしてるけど。


「あの、冴島さえじまさん。どう、でしょうか……?」


 服装が変わったからって性格まで変わるわけもなく、月花さんは俺の反応が気になるのか、恥ずかしそうにうつむきながらも、不安そうに上目遣いでチラチラと俺を見てくる。


「超可愛い……」


 その服装がおしゃれなのかは俺には分からない。ただそんなことが気にならないくらい見とれてしまい、俺はその一言を発することが精一杯だった。実は服装以外に月花さんの仕草に対して言ったことでもあるんだけど、さすがに気がつかないよね。


「あっ……、ありがとうございますっ……! よかったぁ」


 月花さんは顔を上げて、どこか安心したような笑顔を見せてくれた。


「質問があるんだけど、さっきはあんまり肌が見えないようなものを買うって言ってたよね。それなのに今は大胆な服装してるけど、何か理由があるの?」


「実は前からミニスカートに興味があったんですけど、私なんかが履いていいのかなって考えると、勇気が出なくって……。でもっ! 今日は冴島さんがいてくれるから、ちょっとだけ頑張ってみようかなって」


「私なんかが」……か。俺も昔はよくそんなふうに考えてたっけ。そうやって考えてしまうと、自分からは何もできなくなってしまうんだ。


 今の月花さんはまるで昔の俺を見ているみたいだ。気持ちがよく分かる。だからこそ、なんとかして月花さん自身を好きになってもらいたい。


「えっと、俺のためにありがとう」


「ど、どういたしまして」


 そしてお互いに無言。実は俺もめちゃくちゃ緊張している。経験不足の俺は気の利いた言葉が思い浮かばない。


「あのっ! 私の初めて……冴島さんに捧げました」


「えっ!?」


 女の子の初めてって……。こんなにも破壊力のある言葉、俺は他に知らない。俺は次の言葉を探したけど、先に口を開いたのは月花さんだった。


「あっ……! いえっ、そのっ! ミニスカート姿を見せるのが初めてってことで、決して変な意味ではっ!」


 月花さんはまたしても『ふえぇ……』状態になってしまった。


「えっ? そ、そうだよね。ちゃんと分かってるから大丈夫。ところでその服、どうするの?」


「素肌の上からは着ていませんけど、Tシャツはもともと買うつもりでした。ミニスカートはどうしようかな……?」


 ここでなぜか俺を見てくる月花さん。いやいや、俺が決めることじゃないでしょ。


「あの、ミニスカート姿の私、どうでしたか?」


(あれ? 感想ならもう言ったんだけど)


 うーん、これはあれかな? もう一回感想を聞きたいってことなのかな。


「超可愛かった」


「……もう、冴島さんのせいですよ。欲しくなっちゃうじゃないですか」


「自分から感想を聞いておいて、それは俺がかわいそう……」


 俺が冗談っぽく言うと、月花さんはまた笑顔を見せてくれて、さらにこう言った。


「冴島さんのせいで買うことになったんですから、また私と会ってくれないとイヤですよ?」


 俺はこんなにも可愛い不満そうな顔を見たのは初めてだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る