第15話 楽しそうな月花さん

 高二の迷子二人は案内図を写真におさめ、あっちでもない、こっちでもないとお互いが確認しながら、なんとか目的地に到着した。


「やっと着いた……。月花さん、ごめん。時間を無駄にさせてしまって」


 俺が申し訳なさそうに声をかけると、意外なことに月花さんの表情は明るかった。


「フフッ、私は楽しかったですよ?」


「えっ、そうなの?」


「はい! だってこうやって迷ったことだって、そういえばあんなこともあったなぁって、私にとってはいい思い出になるんです!」


 とびっきりの笑顔で月花さんは話す。さっきの『ふえぇ……』といい、実は月花さんは、いろんな表情を見せることができる女の子なんじゃないだろうか。


 だとしたら、いつもうつむいて自信なさそうにしてることが、本当にもったいない。こうやって笑顔を見せてくれることが、少しずつでも増えたらいいな。


 俺達が入ったショップは、主にレディースの服を多く扱っているようだ。少し見回すだけでも、幅広いジャンルがあることが分かる。


 カジュアルときれいめと……、あとは知らない。なんならその二つすらよく分かってない。あれ? 俺、役に立つのかな? 普段からファッション雑誌くらい読んで勉強しとけばよかった。


 今日の月花さんは白のワンピース姿で、肌の露出は控えめ。イメージ通りというか、月花さんは肌を見せることが好きじゃないんだろう。


「見てください冴島さえじまさん! 服がこんなにたくさんあります!」


「うん、きっと服屋だからかな」


 初めてというわけじゃないだろうに、目を輝かせている月花さん。本当に今日はいろんな表情の月花さんを見ることができる。俺にとってはもうこれだけで、来てよかったと思えるんだ。


 だってさっきまで酷い言われようだったんだから。もし俺がいなかったらと考えると、月花さんは心にダメージを負ったまま、回復することなんてなかったに違いない。


 並んで店内に入ると、やはり女性の姿が目立つ。男性の姿も見かけるけど、隣にもれなく女性がいることを考えると、彼女と一緒に来たという人達だろう。


 それなら周りからは、俺と月花さんもカップルに見えているはず。問題は視線なんだけど、どうやら大丈夫そうだ。


「月花さんはどんな服が好みなの?」


「えっと、あんまり肌が見えないようなものをよく買います」


 確かに今着ているワンピースだって、ロング丈で足首くらいしか見えてない。


「やっぱり自分で選んだものを買うんだよね?」


「えっ……と、私が選んで試着した姿をお母さんに見てもらうことが多い、です」


 お母さんと一緒に服選びとか、なんだか可愛いな。


「今日はどんなものを買うとか決めてるの?」


「いえ、急だったので見るだけにしようかなって」


 そしてしばらく店内を見て回ると、月花さんが立ち止まった。


「あっ、あの! 私これ試着してみたいです」


 そう言った月花さんはすでに何着か手に持っている。


「それで、ですね……。その、冴島さんに感想をもらえたらなって」


「俺、あまり詳しくないよ?」


「大丈夫です。冴島さんに見てもらいたいから……」


 そう言い残し月花さんが試着室へ入って行った。少しすると中から声が聞こえてきた。


「ん……しょっと。んっ、キツいかな? あっ……、擦れてっ……! もしかしてまたおっきくなってる……? 誰にも見せないのにどうするの……」


 イケナイひとりごとが聞こえる。最後に聞こえた言葉、なんだか切ない。

 俺はひたすら耐え忍ぶ。決して想像してはいけないのだ。


「あの、冴島さん?」


「ちゃんといるよ」


「着替えましたから見てもらえますか?」


 試着室のカーテンが開いたさきには、さっきとは打って変わって、Tシャツにミニスカートという、露出度が格段に上がった姿の月花さんがいた。

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