第13話 積極的な月花さん

 月花つきはなさんと手を繋いで街を歩く。左手には月花さんの手の温もりがある。


 月花さんは服を見に行きたいとのことなので、ショッピングモールへと足を運ぶ。といっても、歩いて行ける距離じゃないから電車での移動になる。


 あまりに元の世界と同じ感じだから忘れそうになるけど、ここは異世界なんだよなぁ。もし電車じゃなくて馬車だったら、どのくらいスピードが違うものなんだろう。


 月花さんと電車に乗ったけど、視線を集めている感覚は無い。いや、もしかしたら口に出さないだけで心の中では、「イケメンなのになんでそんな冴えない女の子と?」と思われているのかもしれない。


 長イスに座って電車に揺られながら、俺は左隣にいる月花さんとの会話を楽しむ。


「月花さんは休日は何してるの?」


「えっと、本を読んだり勉強したりしてます」


 なんてイメージ通りなんだろう。でもそれって、外には出ないってことなんじゃ……? なんというか、友達はいないんだろうか。でもなあ、それは聞いてはいけないことのような気がする。


「どんな本を読むの?」


「えっとですね——」


 月花さんは本のタイトルを次々と教えてくれた。


(うん、一冊も知らない)


 別に俺が全く読書をしないからじゃなくて、ただ単にこの世界の本だから。言葉や文字はもしかしたら、女神様補正によって分かるようになっているのかもしれないけど、本など固有のものについては、実際に見聞きして覚えていくしかない。


 例えば異世界転生・転移もののラノベで、俺TUEEE主人公でも、異世界で超有名な人を知らなかったり、物の相場を知らなかったり、異世界では全くの常識知らずだったりする。俺はまさにあんな感じ。


 月花さんと話が合うようにするためにも、俺も読書を始めてみようかな。


「もしよかったらさ、次の休みに面白い本を選ぶの手伝ってくれないかな? これから行くところ以外にもいろいろ行ってみたいんだ。今日はそこまでの時間はなさそうだから」


「えっ……! 私、ですか?」


「もちろん月花さんに言ってるよ」


「で、でも私といると目立つから。ほら、今だって」


 そう言って月花さんは周りを見る。確かに電車内はわりと人が多いけどイスは空いてるし、学校にいる時ほどの視線は感じない。誰が何と言おうと月花さんは可愛い。


 俺も元の世界でそうだったから、本当によく分かる。俺も見た目に自信が無さすぎて、被害妄想じゃないけど、なんとなく周りの視線が痛いと感じることが多かった。誰も俺のことなんて見てないかもしれないのに。


「大丈夫だって。もし誰かが月花さんに変なことを言ってくるようなら、俺の彼女に勝手なこと言うなってハッキリ言ってやるからさ」


「そんなっ……! かっ、かっ、かのっ! かっ……! 彼女だなんてっ、そんなっ……!」


 陰キャ寄りの俺ですら驚愕の噛み方をした月花さんは、うつむいてしまった。

 表情が見たいのに、長い前髪に阻まれてそれができない。


「えーっと、勝手に彼女とか言ってごめん。つまり俺はそれくらいの心構えだということなんだ。それで、よかったら返事を聞かせてもらいたいんだけど」


 俺がそう言うと、さっきまで俯いていた月花さんが顔を上げて、俺に向かってグッと顔を近づけてきた。


「もちろんお付き合いしますっ!」


「うぉっ!」


 俺が今まで聞いた月花さんの声のうち、一番の大きさの声に俺は思わず変な声を出してしまった。ふわっとほのかに甘い香りが俺を包み込む。


「とりあえず落ち着こう」


「は、はい」


 月花さんはゆっくりと元の位置に座り直した。だけどまたもや俯いてしまって、表情を見せてくれない。


「今度はどうしたの?」


「だって、お付き合いしますって……」


「それは月花さんが言ったんだけどね」


 おそらく『付き合う』という言葉に反応してるんだろうなあ。


「まあとにかく、次の休みも俺と過ごしてくれるってことでいいんだよね?」


 俺はそう聞いたけど、今度の月花さんは俯いたまま、コクコクと首を縦に振っただけだった。


 いきなり積極的になったり語彙力ごいりょくがゼロになったり、なんだか楽しい子だ。それに少しずつ心を開いてくれてると考えていいはず。


 何はともあれ、今日が終わらないうちに次の約束ができてよかった。

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