第12話 月花さんの希望
俺は
月花さんを否定する言葉に同意するくらいなら、俺が悪者になってでも反論しようと思ったんだ。そして今、俺の左手には温もりがある。なぜなら月花さんと手を繋いでいるから。
「あっ、あの。手、繋いだままです」
「このままでいいと思うよ。これからデートするんだから」
「……うん!」
月花さんが初めて敬語以外で話してくれた。ほんの少しだけど月花さんが心を開いてくれたことが、本当に嬉しかった。
とはいえ突然の二人きりに俺は戸惑っている。だって女の子と手を繋いだことだって初めてだし、ましてやデートなんて何をどうすればいいのか分からない。
月花さんはどうなんだろう? 絶対ないだろうなんて決めつけは良くない。
「私、男の人と手を繋ぐのもデートするのも初めてです……!」
……なかったみたい。ということは俺が初めての男ということに。
改めて月花さんを見てみる。きれいな黒髪ロングに白いワンピース。身長は平均より高く、スタイル抜群。顔も間違いなくアイドル級。性格も文句なし。
そんな女の子が俺と手を繋いでいる。元の世界ならありえない状況だ。
ついでというわけじゃないけど、この機会に気になっていることを聞いてみる。
「月花さん、何日か前にさっきの女の子達と教室で話してたから、てっきり友達だと思ってたけど違ったんだね」
「そう……ですね。私が席に座っていると話しかけられまして、『今度このメンバーでカラオケ行かない?』って誘われて。それで
やっぱりか。それなら直接俺に言えばいいのに。そこでも月花さんは利用されたんだ。
「私っ……遊びに誘われたことが初めてだったから嬉しくって……! 冴島さん、ごめんなさい」
「月花さんが謝ることなんてひとつも無いよ。結果的にほら、今から一緒に過ごせるわけだし。だから元気出して」
「……うん、ありがとう」
泣き出しそうな月花さんだったけど、なんとか持ちこたえたようだ。
するとカラオケ店の前にいる俺達を呼び止める声が聞こえてきた。
「ちょっと待ってくれ」
一見チャラ男のような三人組。それはさっきの合コンに参加していた男子高校生だった。どうやら俺達とは別の高校らしい。
「あんた確か冴島だったか」
その三人組の中心と思われる人物、それはヤバそうな女の子と、もともと知り合いだったらしい男子高校生だ。
「そうだけど、何かあった?」
「いや特に何がってわけじゃねーけど、アイツがあんなひでえ女だとは思ってなかった。俺らも大概だけどよ、さすがにあれはねーよ」
俺以外にも良心的なイケメンがいたようだ。
「だから縁を切ってやった。自業自得ってやつだ。でもお前すげーな。あの場でハッキリ言うなんて、なかなかできねーよ。なんかスッキリしたわ」
「そうか、ありがとう」
見た目は完全に苦手なタイプだけど、意外といい奴なのかも?
「あー、ところでひとつ聞きたいんだけどよ、その女の子とデートするってほんとか?」
「そのつもりだけど」
俺がそう言うと、この男子高校生を含めた三人全員が一斉に苦笑いを浮かべた。
「そっ……、そうか。まあ自由だからな。頑張れよ。じゃあ俺らは帰るわ」
なぜか俺を励まして三人の姿が遠ざかっていく。いや、なぜかじゃないな。理由はわかる。『せっかくイケメンなのに、そんな冴えない女の子とデートなんて、本気か?』って言いたいんだろう。
(くっそー! こんなにも可愛い子、なかなかいないのに!)
もしかしたらこの世界で月花さんが可愛いと思ってる人、俺だけかもしれない。
「さっきの人たち、どうしたんでしょうね?」
当の本人は天然。でもそれでいい。月花さんにはずっと変わらないでいてほしいと願うのは、俺のわがままなんだろうか。
気を取り直して。
「月花さん、どこか行きたいところある?」
「えっと、服を見に行きたいです」
「よし、行こう」
「あっ、待って」
「どうしたの?」
「手を……繋ぎたいです」
いつの間にか手を離していたようで、月花さんから希望してくれた。
「もちろん喜んで」
俺は今度こそ離さないように、ほんの少しだけ強く、月花さんの温かい手を握った。
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