第9話 出かけた先は

「わっ、私とお出かけしませんか!?」


 月花つきはなさんからいきなりの提案があった。月花さんは控えめだけど、ここぞという時の勇気と行動力は見習いたいなと思う。


 さっきの言葉だって、多くの生徒がいる食堂でデートのお誘いなんて、大胆だと思うんだ。


 さっき食堂に入った時は周りの視線を集めた。周りから見れば、『冴えない女の子二人と一緒に食事する変わったイケメン』に見えるだろう。それでいいんだ。俺だけが変に思われるのは構わない。むしろそうなってくれとすら思う。


 ここは食堂だから、ただでさえ騒がしい。それにさすがに俺達の会話に聞き耳を立てる人はいないようだ。だから月花さんの声は俺とたわわ美少女にしか聞こえていない。


「お出かけって、月花さんと?」


「そう、ですね……私とです」


「もうー、ダメですよ冴島さえじまさん。月花さんはきちんと『私と』って言ってたじゃないですかー」


 たわわ美少女に怒られた。そういえばこの子は一年生なんだった。下級生に怒られる俺。


「それは確かにそうだけど、そろそろ君の名前を教えてくれないかなー」


「いえ、名乗るほどの者じゃありません!」


「一緒に昼休みを過ごしておいてそれは無理がある!」


 名前を言いたくないのだろうか。まさかとは思うけど、百本桜ひゃっぽんざくら……とか?


「仕方ないですねー、私の名前は夢瑠(ゆめる)っていいます。あ、名字ですよ」


「ありがとう、覚えたよ」


 そもそも君が押しかけてきたから、こんな状況になってるんだけどね。よし、たわわ美少女の名前が分かったところで、話を戻そう。


「それで月花さん、いつ出かけるの?」


「今週末……です。ご予定はいかがでしょうか?」


 今のところご予定といえば、この世界のマンガやラノベを読みあさるくらいだから、予定なんて無いも同然といえる。


「空いてるよ。でも月花さんいいの? 俺といるとまたツラい目に遭うかもしれないよ」


「そんなことはないです! むしろ私のほうこそ申し訳ないです」


「いやいや、謝ることなんて無いって! 今週末ね、了解。ここだと目立つから、あとで連絡先を交換してもらっていいかな?」


「は、はい。分かりました」


 女の子にごく自然に連絡先交換を申し込んでしまった。元の世界では絶対にできなかったことなのに。やはりイケメン(扱い)になって、気が大きくなっているんだろうか。


 もしも本当にイケメンになったとしたら鏡を見た時に、俺だけど俺じゃないみたいな感覚になると思うんだ。


 だから俺はむしろ、この顔のままで良かったとすら思う。イケメン扱いなのは普通に嬉しいです。


「あのー、冴島さん? 私もいるんですけどー?」


「えっ? ああ、いるね」


「違うでしょー! 私とは交換してくれないんですか?」


 たわわ美少女はぷんすかと口をとがらせる。


「そんなことはないよ。それなら、たわ……夢瑠さんもあとで交換しようか」


「私はここでだいじょーぶです。気にしません」


 ということだったので、俺はスマホを取り出した。ここは異世界だけど、美的感覚以外は本当に元の世界とそっくりだ。というか同じかもしれない。剣と魔法だけが異世界じゃないんだ。冒険者とか絶対無理だし。万年Fランクで終わる自信が俺にはある!


 そして俺はたわわ美少女と連絡先を交換した。俺から連絡することは多分ないだろうけど。


 放課後、今日も月花さんと一緒に帰る。この光景も当たり前にするつもりだ。周りの生徒、早く見慣れてくれないかな。


 別れ道まではほんの数分だけど、その時間を積み重ねる。今日は連絡先の交換をすることができた。その日の夜に少しだけメッセージを送ると、ずいぶんと時間が経ってから月花さんからの返信が届いた。


 きっと一生懸命に内容を考えてくれていたんだろうなと、根拠は無いけどそう思えた。



 今日は月花さんとの約束の日。実はこの世界に転生してから初めての休日。それが可愛い女の子とのデートだなんて、最高だ。それどころか人生初めてのデートだったりする。


(しかし意外な場所だよなぁ)


 月花さんに指定された場所はカラオケ店だった。



—————————————————————


【あとがき】


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