第10話 誘われた理由

「わっ、私とお出かけしませんか!?」


 月花つきはなさんからお出かけに誘われた。そして転生してから初めての休日、俺は今カラオケ店の前で月花さんを待っている。


 正直、とても意外な場所だ。確かに大声を出せばスッキリするけど、月花さんがシャウトしている姿は想像できない。ひとりカラオケが趣味だったりして。おひとり様は悪いことじゃないんだと、声を大にして言いたい。


 昨日改めて聞いた話だと、どうやら同じクラスの女の子も何人か来るらしい。男は俺一人なのかな? だとしたら逆に困る。


「ごめんなさい! 遅れてしまいました」


「いや、まだ約束の時間になってないから遅刻じゃないし、俺が早く来すぎただけだからね」


「でもお待たせしてしまいましたから、私の遅刻です」


 本当にいい子だなあ。でもその理屈だと、同時に到着以外は全部遅刻ということになってしまうけど。


 月花さんは白いワンピース姿で、肌の露出をできる限り抑えているようだった。それがまた落ち着いた雰囲気の月花さんにとても似合っていて、きれいな黒髪ロングと合わせて清楚という表現がピッタリだ。


「その服、とても似合ってるね」


「えっ……! あっ……! いえ、私なんてそんなっ、全然です! けど、ありがとうございます。そう言ってもらえたの初めて……!」


 相変わらずの慌てようだけど、言い終えたあと恥ずかしそうに微笑む姿に俺は気がついていた。


 部屋の中に入ると、確かに同じクラスの女の子が四人すでに座っていた。何日か前に月花さんと話していた子達だ。


 それはいいんだけど、とても気になることが。男がいる。三人ほど。イケメンだ。つまり全員が俺と似たような感じ。


「あぁー! ホントに冴島さえじま君が来てくれたー」


「月花さん、ありがとねー」


 女の子達はそう言っているけど、月花さんは何がなんやら分からないといった様子だ。俺はもっと分からない。男、全員だれー!?


「あっ……あの、男の子も来るなんて私聞いてないです」


「そりゃそうっしょー、だって言ってないんだからー」


「ま、とりあえず座りなよ。冴島君はあっち、月花さんはウチらの間に来て」


 とりあえず従うことにしたけど、知らん男の隣に座らされて、一体どうしろと?


「それじゃ始めるよー!」


 女の子の一言で何かがスタートした。それからは自己紹介したり、普通にカラオケを楽しんだり、雑談タイムがあったり。どうやら男子達は別の高校らしい。その中の一人が女の子の知り合いということで、この集まりが実現したそうだ。


 そうか、これは合コンというやつだな。高校生だからカラオケだけど、要は男女数人で遊んで、気が合えば二人で会えばいいんじゃない? ということか。


 だとしたら、人数がおかしいような。俺と月花さんを含めて、男子四人、女の子五人ということに。


 しばらくは楽しげな雰囲気だったけど、女の子のある一言で一気に空気が変わっていく。


「でさぁー、この子、本当に可愛いくないと思わない? あ、顔の話ね」


「そうそう、クラスでも断トツだよね!」


「まあでも性格は悪くないんじゃね? こうしてちゃんと冴島君を連れて来てくれたしさ」


「ね、みんなもそう思うよね」


 女の子が口をそろえて酷い言葉を吐く。誰に向けられた言葉なのか。それは月花さんにだ。


 同意を求められた男子は全員が苦笑いをして、言葉を発することはない。


 当の月花さんは下を向いていて、長い前髪に阻まれて表情は見えないけど、いい表情をしているわけがない。


 月花さんは当て馬にされたんだ。実は女の子達は俺から見るとわりと可愛い。だけどわりと冴えない部類に入る。だから月花さんを連れて来て、相対的に自分達を良く見せようとしたんだ。それともただ単に笑い者にしようとしたのか。


 男子よりも女の子が一人多いのは、月花さんだけを余らせるつもりだから。男子が月花さんには話しかけないだろうと考えたのだろう。


 そして月花さんだけがぽつんと取り残される。その姿を見て女の子はバカにする、自分より下の人を見て安心する。……まったく、酷いことを考えるもんだ。


「ね、冴島君もそう思うよね?」


 女の子達はあろうことか、俺にも同意を求めてきた。もちろん同意なんてするわけがない。


「そういうの、好きじゃないな」


 俺は女の子達に向けて言い放った。

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