第8話 たわわ

冴島さえじまさーん! お昼ご一緒しませんかー?」


 昼休みに俺が食堂に行こうとすると、今朝、百本桜ひゃっぽんざくらから助けた美少女が俺の机までやって来た。めちゃくちゃ可愛い。


 肩まである長めの茶髪ボブに、小柄で幼さの残る童顔。それでいてくっきりとして整った目鼻立ち。そして腕を組まれた時に初めて知った、たわわ。確か『たわわ女子』っていうんだったかな。今日は何曜日だっけ?


「いや君、一年生でしょ。それに入学二日目に上級生の教室に来るって、クラスの友達と過ごさなくていいの?」


 俺はそう言ってから「しまった」と思った。なぜ友達がいると決めつけたのか。まあでもこの子に限ってそれは無いか。


「いいんですよ、一緒に食堂に行きましょうー!」


「あっ、そんな大きな声を出すと……」


 心配した通り、俺達は目立っている。周りから見ると、『冴えない女の子がイケメンに気に入られようとしている』あるいは、『冴えない女の子がイケメンにつきまとっている』ように映っていることだろう。


 でも違う。本当は、『俺がたわわ美少女から昼休みに誘われて、めちゃくちゃ喜んでいる』が正解です。


「多分だけど俺に近づいたことで、君が悪く思われてるんじゃないかと思うんだ」


「そんなのへーきですよ! 周りにどう思われようとも、私は私がしたいようにするんです! あ、もちろん悪い事はしませんよ」


 きっとこの子はその明るさと強い意志で、不遇な扱いを跳ね飛ばしてきたんだろう。


「ちょっと待って、そこに座ってる月花つきはなさんも誘っていい?」


「月花さんですか? あっ、私を助けてくれたおねーさんですね!」


 隣の席の月花さんに俺とこの子の会話が聞こえていたらしく、いきなり名前を呼ばれた月花さんは、一瞬ビクッとした。


「えっと、あなたは今朝の……」


「はい、今朝はありがとうございました! 月花さんって、とっても勇気があるんですね!」


「いえ……。私もあなたの気持ち、すごく分かるから。褒めてくれてありがとう」


 月花さんは誘いに応じてくれ、俺達は三人で食堂へ向かった。相変わらずクラスの一部からの視線を感じるけど、そんなことは気にしない。


 食堂はかなり広く、大きい窓から日差しが降り注ぎ、ちょっとした開放感を感じることができる。そしていくつものテーブル席が用意されている。なのでよほどのことがない限りは、座れないということは無さそうだ。


 四人がけのテーブルが空いていたので迷わず座る。俺の正面に月花さん、俺から見て月花さんの左側にたわわ美少女という位置関係。


「あの、冴島さんと月花さんはどういう関係なんですか?」


「えっと……」


 俺はどう答えようかと悩んだ。友達だと答えるのはまだ早いような気がするし、ただのクラスメイトと答えるのも、それはそれで寂しい。


 すると俺よりも先に、月花さんが口を開いた。


「恩人……です」


 恩人。全く予想していなかった言葉に、俺は質問に答えることをやめた。


「恩人って、俺は何もしてないよ」


「いえ、酷いことを言われた私を励ましてくれて、『可愛い』とか『また明日』とか、嬉しい言葉をくれました。冴島さんのおかげで学校が少し楽しくなってきたんです」


 月花さんにとって学校は楽しくなかったようだ。毎日のように行く場所が楽しくないなんて、つらかっただろう。


「恩人ですかー。私にとっての冴島さんと月花さんということですね!」


 たわわ美少女は明るい表情と元気な声で、そう言ってくれた。


「あの、冴島さんに一つお願いがあるんですけど……」


「何かな?」


「わっ、私とお出かけしませんか!?」

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