第7話 意外

 結局、謎の一年生美少女の名前は分からないまま、教室へ向かう。もちろん月花つきはなさんも一緒だ。月花さんは「ご迷惑をおかけするので」と断ってきたけど、偶然とはいえせっかく会ったんだから、わざわざ別々に行く理由なんて無いんだ。


 一緒に教室へ入ると、早速クラスの注目を集めた。そして近づいて来る金髪縦ロールの女の子が一人。美集院びじゅういんさんだ。超がつくほどの美少女。あと理事長の孫とかではないことが分かった。


冴島さえじま、月花さん、おはようございます。ところで、なぜあなた方が一緒に登校してきたのかしら?」


 しっかりとあいさつするあたり、礼儀正しいのかも。いや、初対面でいきなり「彼氏になりなさい」なんて普通言わないか。


「校舎の前で偶然会っただけで、特に理由は無いかな」


「そ、そうです。冴島さんのおっしゃる通りです」


 相変わらず月花さんは敬語だ。高二の同級生に対して「おっしゃる」って、俺はまだまだ友達とすら思われてないんだな。まずは俺に対しては敬語じゃなくなるまで仲良くなろう。


「そうですの。ところで冴島、私の彼氏になる話はどうなったかしら?」


「どうなったもなにも昨日、『初対面の人と付き合うことはできません』って言ったよ」


「あら、それなら問題は解決されましたわ。もう初対面じゃありませんもの」


 まるで子供みたいな理屈をこねる美集院さん。クラスのほとんどがそんな俺達を見ている中、殺気にも似た視線を感じた。


 百本桜ひゃっぽんざくらからの視線は明らかに違う。そういえば美集院さんのことが好きなんだっけ。


 ワザと人にぶつかって暴言を吐くなんて、そんな意味分からんことをする行動力があるなら、美集院さんにアプローチすればいいのに。


「さあ、席に着こう」


 俺は美集院さんの横を通り、主張をしれっとスルーしようとした。月花さんも俺のあとに続く。


「少し待ってもらえるかしら」


(さすがに無理があったかな)


「月花さん、リボンが曲がっていますわよ。そのまま動かないでくれるかしら」


 美集院さんはそう言って、月花さんの制服のリボンを整えてあげた。


「あ、ありがとうございます」


「女性なんですから、もっと身だしなみには気を配りませんとね」


 意外だった。てっきり美集院さんは周りの人達を見下しているのかと思ってた。


「なっ……なんですの冴島。私をじっと見て」


「いや、優しいなと思って」


「なっ……! なんですのっ! 急にっ! ちょっとイケメンだからって、調子に乗るんじゃありませんわよっ」


 美集院さんはまるで捨て台詞のようにそう言うと、ズカズカと歩いて自分の席へ着いた。上品なのかそうじゃないのか、よく分からん子だなあ。


 元の世界では冴えない俺がモテるために何ができるか? 顔はもうどうしようもない。体型はある程度自分でコントロールできるけど、ほぼほぼ見た目以外で勝負するしかない。


 それなら『面白い人』になろうと、元々陰キャ寄りだった俺は頑張った。その結果、特にクラスで浮くことも無く、普通に友達もできた。でも、やっぱり女の子にはモテなかったんだ。


 それでもそんな努力は無駄じゃなかった。なぜなら、新学期二日目でクラスの何人かと話せる関係を築けているから。相変わらず女の子達はどんどん話しかけてくる。


 月花さんが心配になった俺は左隣の席の月花さんを見ると、女の子数人と話していた。


(よかった、女の子は月花さんに優しいんだな)


 昼休み。俺が食堂へ行こうとすると教室の入り口から、小柄な女の子が素早い動きで俺のところへやってきた。


「冴島さーん! お昼ご一緒しませんかー?」


 それは今朝、名前も言わず去って行った美少女だった。

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