第6話 明るい美少女

 校門から校舎までの道の途中で、美少女が百本桜ひゃっぽんざくらに絡まれているところを俺が仲裁に入り、月花つきはなさんの一言が傍観者の空気を一変させた。


 それにより百本桜は自分で自分の評判を落とすことになり、美少女を助けることに成功した。


 その女の子は、肩まである長めの茶髪ボブに、小柄で幼さの残る童顔。それでいてくっきりとして整った目鼻立ち。誰がどう見ても美少女。いや、この世界だと違うかな。どう見ても美少女。


 ぜひともお近づきになりたいと思うのは、男としてごく自然のことだといえる。


 百本桜が許せなくて結果的に助けた形になっただけなのは分かってるんだ。それに月花さんがいなければ、ここまで上手くいっていなかった。


「助けてくれてありがとうございます!」


 美少女はそう言って俺と腕を組んできた。いきなりお近づき(物理)になりすぎて、もう俺のほうが離れようとしてしまう。だって女の子と腕を組むなんて初めてなんだから。


 そしてさらに俺の腕に柔らかい感触が。もう絶対当たってるんですよ、あそこが。


「あの、当たってるんだけど……」


「あててんですよ」


 マジか! 異世界にもこんな文化があるなんて。次の休みはこの世界のマンガやラノベを読みあさろう。


「いやいや、そうじゃなくてね。とりあえず離れてもらおうかな。君が心配なんだよ。大丈夫? その……あんなこと言われて」


「だいじょーぶですって、慣れてますから!」


 俺から離れた女の子はそう言ってニカッと笑う。俺から見ると超美少女なのに、この世界では超冴えない扱いの女の子。

 本当は凄く重いことなのに、それを感じさせないのはこの女の子の明るさのおかげだろう。


 月花さんもそうだけど、俺はそんな悲しいことに慣れてほしくはないんだ。見た目で人の価値が決まるわけじゃない。

 それに慣れてしまうと、いつか自尊心というものが無くなってしまう。だから、俺だけは常に俺の味方でいるようにしている。……なんて、人に言えるほど俺は偉くないけどね。


「それよりもおにーさん、冴島さえじまさんですよね?」


「俺のこと知ってるの?」


「だって一年生のあいだでも有名ですよ。二年生に超イケメンの先輩がいるって」


 新学期が始まってまだ二日目なのに、もうそんなに広まってるの? ウワサって怖い。


「同じイケメンなのに、さっきの人とは大違いですね! 私もイケメンとか関係なく、誰とでも平等に接するよう心がけてます」


 さっきの人とは百本桜のことだ。正直、あいつと一緒にされたくはないかな。


「完全に個人の性格だと思うから、イケメンに悪いイメージ持たないでね」


「わかってますってー! って、イケメンなのは否定しないんですね!」


 イケメン扱いされて初めて分かったけど、こう言われた時の返し方って凄く困る。


「イケメンなのは心だけだよ」


「ちょっと何言ってるかわかんない」


「マジトーンやめて……」


 明るい子がスッと冷める瞬間って、めちゃくちゃ怖い。


「冗談ですよ! 冴島さんはいい人です!」


 そろそろ行かないと遅刻しそうだ。周りではまだ数人の生徒がこっちを見ている。周りから見た構図としては、イケメン一人に冴えない女の子二人ということに。


 多分、女の子だけが悪く思われているんだろうな。他人が誰かと一緒にいるところが、そんなに気になるかな。


「じゃあ私はこれで失礼します」


「よかったら名前を教えてもらえないかな」


「いえ、名乗るほどの者じゃありません!」


 一年生の美少女はそう言って校舎へと走って行った。


(それは助けたほうが言うセリフだよね)

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