百鬼夜行
お寺がある。古い寺だ。門構えも立派で、檀家さんらしき人が何やら寺で催し物をしているようだ。寺にある古道具を寺の敷地内で処分をしている真っ最中の様である。あまりに単調な旅路だったので少し気分転換でもしようと寄ってみた。古い寺だけにいろいろな珍品があるようだった。特に絵や書物が多いようだ。学問は苦手であるので、絵の方をあれこれと物珍しそうに見ていると、その古市に参加されている檀家さんに話かけられた。ここにある絵はお寺に寄贈されたり、何らかの理由で預けられたりしたものなのです。ふーん。預けられたってぇ理由?えぇ。普通の家では取り扱えないという事で、お寺にどうにかしてくれないかなどと相談する方も結構多いのですよ。その中には何か良くない事をお寺にもたらすものも結構あるのです。ふーん。ほら、あそこの絵を売っておられる方。あの方はお寺で大変な目に会ったと評判の人です。大変な目?詳しくは知りませんが、和尚様がお亡くなりになったそうです。そりゃ大変だ。不謹慎かとも思ったが、詳しい話を聞いてみようとその人に話しかけみた。えぇ、そりゃてぇへんでござんしたよ。ふーん、なにがてぇへんだってんでぇ。そりゃあの絵の話に決まっている。どの絵なんでぇ。と聞くとその絵の話をその人はしだした。
妖怪図に書かれた魑魅魍魎の群れ、行列。見た瞬間に怖気がする。和尚に聞く。これは何ですか。百鬼夜行です。そこに描かれているのはこの世の地獄であった。異形の面相、人間とは似ても似つかない姿かたち、そのような物が数十数百と道を行進しているのだ。見ているだけで陰鬱な気分になるそんな絵であった。寺に寄贈されたのは、所有者に不幸があったためです。それらの厄を払うため日々祈祷しておるのです。とその寺の和尚が言った。
夜になり、もよおした為厠へと長い廊下を移動する。ふと、あの絵のある部屋で気配がする。ひょいと部屋をのぞき込んでみる。なんだか、あの絵の雰囲気が変わっている気がする。よく見ようと部屋へ入ったみた。嫌に寒い。また、もよおしてきたのでとっとと部屋を出た。部屋の中でもぞもぞっと何かが動くような気がして振り返ってみる。特に何もなかった。
おかしいな。と和尚さんは独り言ちていた。どうしたんです。丁度起き抜けに通った部屋の前で和尚さんの声がしたので尋ねてみた。どうも一頭足りないような気がする。何がです。と聞く。ほらこの絵の中でこの部分が空白になっておるじゃろ。昨日まではここに確かに一頭何か描かれて居った気がするのじゃ。と納得いかなそうにつぶやいていた。絵が動き回って抜け出せるわけもあるまいし、気のせいではないですか。と笑って言った。それがじゃ・・・。と和尚さんは妙な事を話し出した。
もともとの持ち主は好事家での、いろいろな珍しいものを集めて居った。珍品の中には何かしらの曰くありげ、もしくは曰くがあるもの、そういうものを好んで集めて居った変わり者なのじゃ。その変わり者が、もともと人付き合いも少ない為、しばらく連絡がこないので長屋の人が様子をうかがったところ部屋に一人で変死したという。変死というのは部屋は焦げていないのに死体が炭になっていたという事だ。当然事件を疑って十手持ちたちの調べが入った。何処かで燃やされ部屋まで移動したのか、それとも何らかの変異でもあったのか。その部屋に変死体と一緒に諸々の収集物迄持ち出され丁寧に調べられたが、一向に事件は解決には至らなかった。結局、遺体を供養するのと同時にその収集物も寺でお祓いすることとなった。
という事で、その好事家の事件の犯人は見つかっておらんのじゃよ。と和尚は少し声を落として言った。この絵の中に犯人はいたのやもの知れんな。と冗談とも本気ともつかない調子で話を締めくくる。その翌日、炭となった一体の遺体が見つかった。顔の形も判別できないほど炭化していたが、どうやら寺の面子を調べてみると先日その妖怪図のお話をされた和尚の様であった。恐る恐るその妖怪図を見てみると、先日までなかった火に囲まれた恐ろしい形相の化物が一体増えていることが分かった。
とまあそんなことがこの寺であったんでさぁ。なんてのんきな話をしているように話をする檀家さんであった。ちょっとしたものでも買って旅を再開しようと、急いで何か無いか見回してみると、根付の良いのが見つかった。少し焦げ目がついていて安くで売っていたので、すぐに買って足取りも軽く旅を再開する。
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